二〇〇四年八月
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八月一日(日)
「麦の病気」
八時、花子に早く起きろオマエはボサッとしている場合じゃないぞと激しく抗議されしぶしぶ起き上がると、麦次郎がリビングの隅っこにある通称「麦の具合悪いスペース」でうずくまっている。話しかけても反応がない。様子を見ていたら吐いてしまったので、病院に連れていくことに。カミサンが連れていき、ぼくは留守番をする。どうやら昨日与えたイワシのゴハン、脂がきつすぎたらしくて胃を壊したらしい。注射を二本も打たれたそうだ。帰宅後は話しかけると「みゃみゃみゃー」と必ず鳴く。どうやら「痛いから話しかけないデー」と言っているらしい。反応があるということは恢復している証拠、ひとまず安心するが、話しかけるたびにいちいち「みゃみゃみゃー」だからおもしろくて、つい過剰に声をかけてしまう。
自分自身、かなり疲れているようなので昼寝。夕方、漢方薬局へ。やはり疲れているようで、頭痛は身体の冷えから来ているのではないかとのこと。別の薬を処方してもらった。
阿部和重『シンセミア』。山形の田舎町に、謎の事件が多発する。
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八月二日(月)
「安心の腹」
三時、花子に起こされる。また麦次郎の様子がおかしいので教えてくれたのかと思い慌てて起き上がるが、どうやらそうではなくてたた腹が減ったからゴハンということだったらしい。アタマをポカンと殴りたくなった。
明け方、気づいたら麦次郎がベッドの上で一緒に寝ている。かなり恢復したらしい。安心した。うれしくて興奮したのか、しばらく寝つけず。気づいたら目覚ましがなりはじめた。麦はすずしそうな顔でぼくの足元あたりでゴロリと情けない腹をデロリとさせながら横たわったままだ。腹をグリグリといじってみて、気持ち悪がらないのをたしかめてから起床する。すぐにぼくのあとをついて来て、リビングの風通しのよいところを見つけてまたゴロリとだらしない腹を丸出しで寝転がった。もう安心だ。七時二十分。
こちらの体調もかなりよくなった。だがまだ頭痛が完全にはひかない。九時、事務所へ向かうが午前中と午後早めの時間は頭痛と闘いながらの作業となる。ところがニンゲン不思議なもので、逆境にあればあるほどどうやら能率はよくなるらしく、D社広告のコピー、超難産であるにもかかわらず、予定より早めに書き終えた。十八時三十分、店じまい。
ひさびさにゆっくりした夜を万全な体調で過ごす。
島尾敏雄『死の棘』。浮き上がったり沈んだりする狂気。
阿部和重『シンセミア』。青姦盗撮サークル。うーん、やはりどこかピンチョンっぽいんだよなあ。
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八月三日(火)
「坐骨神経痛、ふたたび」
七時、花子に起きろとしつこく噛まれたりひっかかれたりされつづけたが、無視こそせぬものの適当にあしらって狸寝入りのごとく蒲団にもぐり、もうすこしだけ眠らせてくれ、寝たい、寝たいと思いつづけていたが、結局は花子の根気としつこさに負け、ハイヨハイヨとあやしていたら目覚ましが鳴ったのでしかたなく起きた。
ほんのわずかに坐骨神経痛。ひどくならなければいいが、と祈りながら身支度する。
九時、事務所へ。十一時、飯田橋のN社へ。G社雑誌広告の打ちあわせ。十二時過ぎ、西荻に戻る。「それいゆ」で昼食。帰社後、黙々とE社企画、G社雑誌広告などに取り組みつづけるが坐骨神経痛がすこしずつ痛みを増し、恐怖を感じたのであわてて「らくだ治療室」に電話して治療してもらう。坐骨神経痛に関しては、カイロよりもこちらのほうが効果は高い。
二十時、店じまい。
阿部和重『シンセミア』。フィスト・ファックと旧友の事故死。
島尾敏雄『死の棘』。ずっとハイテンション。ハイテンション小説だ。
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八月四日(水)
「坐骨神経痛対策を本気で考える」
七時十五分起床。九時、事務所へ。閑な一日。午前中はマイペースでG社雑誌広告のコピーを.十四時に飯田橋のO社で打ちあわせがあったあとは、ほとんど予定なし。ゆっくりと残った仕事をこなし、十九時、店じまい。
坐骨神経痛が毎年梅雨から夏にかけてひどくなる。抜本的な治療というか予防が必要だと痛感し、今日から自力整体整食法なるものをやってみる。自力整体とは要するにストレッチなのだが、睡眠中に自己治癒力を高めるために食生活を改めるのが整食法。朝は水分だけにとどめ、午後は炭水化物中心の食事を、そして夜はたんぱく質を摂取し、睡眠前後六時間は食べ物をいっさい口にしないことで、腸内をきれいにし内臓の負担を軽くする。腸内に宿便が残っていると、それが坐骨神経痛やぎっくり腰を引き起こすらしい。なるほど腸が重たければ骨盤も仙骨もおかしくなるだろう。
阿部和重『シンセミア』。出てきた、ヤクザ。
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八月五日(木)
「猛暑ですから」
目覚まし時計の音はストレスの元になる。自然に目が覚めたときに起きるというのが気分よく起きられそうに思えるが、わが家の場合それは絶対に実現できない。目覚ましのアラームをセットしなくても、花子が先に肘やら顔やらをカプリと噛んで、強制的に起こしに来るからだ。今朝は三時に起こされた。ちょっと腹立たしかったのでゴハンを与えず二度寝を決め込んだら、自然に目が覚めた七時頃は賢くぼくの横でお座りをして起きてるのをじっと待っていた。反省したのだろうか。
九時、事務所へ。十五分の徒歩が、背骨のくぼみが滝になるほどの発汗を促す。スポーツでかいた汗なら気分もよいのだろうが、通勤の、人ゴミを抜けながら、そして通りすぎる自動車を避けたり待ったりしながらかいた汗とはあまり爽やかではない。今日のどんよりと曇っているくせに一丁前に気温だけは高いという天気に、この汗のかきかたは皮肉なくらい相性がよい。少々鬱陶しいこの空模様のもと、ツクツクホウシの鳴き声が聞こえてきた。例年ならお盆ごろから耳にするはずなのだが、今年の秋はいつもよりひと足早いのかもしれない。だが、秋が来る前に、この蒸し風呂天気をどうにかしてほしい。
G社企画、D社雑誌広告など。午後から外出。D社でプレゼン、L社で打ちあわせ。小石川、今日も蝉時雨。おなじミンミンでも蝉によって個体差があるらしく、音が妙に高かったり、よじれていたりするから不思議だ。
二十時、店じまい。帰りがけに夕涼みする偽シンガプーラちゃんを見かけた。
阿部『シンセミア』。あちゃー。今度はロリコン警官。
島尾敏雄『死の棘』。心理描写と行動描写のバランスが常に揺れているようで、それが独特の文体をつくりだしているようだ。
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八月六日(金)
「悪循環」
七時二十分、目覚ましの音で目が覚める。七時には目が覚めていたのだが、モー娘。のことなどを考えていたらまた眠ってしまったようだ。気づけば横で麦次郎が暑苦しく腹をカミサンの頬にペタリとくっつけて、悶絶しているかの表情でグースカ寝ている。
九時、事務所へ。曇り空ばかりが広がっている。ときおり射す陽射しは真夏の暴力的な暑さを幾分弱めているようにも感じる。躯を覆う空気中の湿気で、夏の曇り空を通り抜けた優柔不断に屈折し拡散する暑い光が蒸されて、またぼくの背中は滝のように汗を吹き出している。蝉がやかましく鳴く、その声を聞くたびに毛穴が開き、汗がどっと噴出してくるような気になる。噴出したあと、そこに熱い湿気がすぽりとはまりこむ。するとまた汗が吹き出してくるのだ。悪循環。
G社プロモーション企画。十二時三十分、腕こきリフレクソロジーのkaoriさん、テディベア作家の小林きのこさんと合流し、カミサンと四人で「タイ カントリー」で昼食。午前中、きのこさんがkaoriさんの世話になっていたそうだ。なるほど顔面の筋肉が緩んでホニョホニョだ。猫話などで盛り上がる。
夕方から、G社プロモーション企画のために、スーパーマーケットの視察に。東上線沿線のふたつのスーパーと、池袋のロフト、ハンズと四軒まわる。ついでに池袋西武の「ヨウジヤマモト」ものぞいてきてしまった。フフフ。
二十時三十分、店じまい。「炭屋五兵衛」で焼き鳥を食べてから帰る。
阿部『シンセミア』。セックスレス夫婦。
島尾敏雄『死の棘』。同じことの繰り返しなんだけど、ねえ。
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八月七日(土)
「傘がない」
眠りたいだけ寝て、目が覚めたら起きよう。朝七時、そう思いながらも花子にゴハンを与え、さあもう一度、眠りたいだけ寝るぞと思ったら、次の瞬間にはもう熟睡していたようで、目が覚めたら朝九時三十分。この二時間三十分が、異様にもったいなく感じる。眠りが深すぎたのか、一瞬にしか感じなかったのだ。深い眠りは時間感覚を狂わせるらしい。
掃除、洗濯。カミサンと、最近はじめた自立整体というヨガのようなストレッチを念入りに行う。
午後よりカミサンと外出。新宿伊勢丹の「ヨウジヤマモト」でウールギャバジンのパンツを購入。以前担当してもらっていたGさんは池袋パルコに異動になったあと、退社してしまったらしい。残念。すこし伊勢丹をブラブラしてから小田急へ。ファンケルショップで粉末青汁限定発売のツイントース入りを購入。吉祥寺へ移動し、ユザワヤでカミサンの画材など。つづいてパルコの「ワイズ」へ。カミサン、パンツを何本か試着するも、結局買わず。「フランフラン」などを見てから地下の書店へ。『群像』九月号を購入。西友の「無印良品」で石鹸置き、歯ブラシ立て、食材など。ついでに「ナチュラルハウス」でニラなど。急に雨が降りだした。傘がないので、ロンロンの傘屋さんで折畳み傘を購入、それを指して帰宅する。
夕食はタッカルビ。この鍋は、夏でもイケる。
ぷちぷちと風呂に入る。ぼくが身体を洗っているあいだは、ずっと洗濯物を干すためにつけられているらしい二本のスチール製の棒の上にとまってじっとしている。身体の洗い方を観察しているようではない。じっとどこか一点を、たとえばタイルのほうだとか、足元のはるか下にある湯船だとか、そんな場所を見つめている。おとなしくしているときはいいのだが、ときどきキョキョキョとご機嫌沿うな声をだしながら飛び回ったりするから少々やっかいだ。頭を洗っているときに頭の上にとまろうとするのはやめてほしい。しかしいくら言い聞かせても理解してくれない。指先で腹や頬をピシピシとつっついてみたらキーキーキーと怒られた。
阿部『シンセミア』。ロリコンにスカトロ趣味かよ。トホホ.
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八月八日(日)
「夏はまだつづく」
九時。茹で上げられた自分の身体中から発散される湯気がどういうわけか渦を巻きながら頭の方へと流れてゆき、顔や首、耳のまわりあたりでよどんでいるような感覚で目を覚ます。だが寝室を出てリビングへ出てみれば、もくもくと沸き上がる入道雲のもと、意外にも涼しげな、ほんのすこし秋の雰囲気が紛れ込んだような風が吹いている。よどんでいた顔のまわりの湯気は、その風がすっと洗い流してくれた。だが数分後には汗をかきはじめてしまう。陽射しは強い。夏はまだつづく。
すっかりなまけた表情でまだ眠りつづけるカミサンの横でパタリと倒れている麦次郎と花子をうりうりしながら身支度し、掃除、片付けなど。最近は朝食を採らない――正確には青汁などの水分だけで固形物はいっさい口にしない――から朝のひとときに余裕が生まれる。そうそうに掃除を終わりにし、シャツにアイロンを当てる。
午後より外出。西荻図書館に寄ってからクッキー屋「がちまい屋」でスコーンを購入し、そのまま歩いて丹波邸の横を通り抜け、三十分かけて吉祥寺へ。伊勢丹の九州物産展で焼酎を一本購入してから、ロフトなどに寄り雑貨などを見て回る。ロヂャースで猫缶を買って帰る。
夕食は鶏レバニラ炒め。火力を最大にしたら水分が跳ね散り、アチイアチイと悲鳴を上げながらも手を休めずにガガガっと仕上げたら大好きな居酒屋「えんず」の純レバ炒めほどではないが、かなり近い出来になって大満足だ。
阿部『シンセミア』。事実上の仮面夫婦、妻のシャブ漬けだった過去。テロ事件と火事、そして大地震。うーん、事件のごった煮。
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八月九日(月)
「不思議な味」
七時三十分起床。九時、事務所へ。スタジオ・キャットキックは夏休みに入って入るのだが仕事が間に合わないので出社する。G社企画のために、ドラッグストアやスポーツクラブなどを視察。夏休みなので早々に店じまい。十七時、阿佐谷の七夕祭りへ。不格好な張りぼてを眺め、雑貨屋で七夕特価になっている食器などを購入し、「福来飯店」で食事してから荻窪へ。エビチリ、チンゲンサイの炒め物、水餃子。荻窪では無性に珈琲が飲みたくなったので、「荻窪珈琲店」に立ちより、ブレンドを飲む。軽めだが後味がしっかり残る、不思議な味。ガツンと濃い珈琲が好きなぼくとしては、ちょっと欲求不満になるかな。カミサンも同感とのこと。
阿部和重『シンセミア』。いろんな伏線が交錯しながら物語を形成している。
島尾敏雄『死の棘』。夫トシオも狂気に染まってゆく。自殺未遂。狂気に彩られたもの同士が、何度も同じこと――浮気を端に発した過剰な夫婦喧嘩――を繰り返していく。消耗の過程。
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八月十日(火)
「だらりと過ごす夏の休日」
九時起床。午前中は暑さにヒーヒーと悲鳴を上げながら掃除。午後は消耗しきって昼寝してしまう。
夕方、散歩へ。ツクツクホウシの鳴き声が時折聞こえる。「どんぐり舎」で珈琲を飲みながら、置いてあったマンガ『編集王』を読む。夕飯の買い物をしてから帰宅。
辛いもので汗を流したい気分になったので、夕食はチゲ鍋にする。
阿部和重『シンセミア』。物語への、キャラクターとしての作者の介入?
島尾敏雄『死の棘』。東北にあるトシオの父の故郷への逃飛行。だが、逃亡先でもふたりは狂気にとらわれたままだ。
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八月十一日(水)
「ラッキョ二十個」
七時三十分起床。九時、事務所へ。夏休み中だが、人と会う約束があるのでついでに仕事してしまうことに。午前中はG社企画。
十四時、ぼくとカミサンの共通の友だちでもある551さんが紹介してくれたT生命のI氏が来る。スタジオ・キャットキックの経営者向け保険の見直しを依頼する。サッカーと酒をこよなく愛する、眉毛の手入れの行き届いたエグゼクティブ。
夕方、整骨院へ。十八時、店じまい。刺し身と泡盛の古酒で晩酌しながら、テレ朝の心霊特番を見る。見ながらラッキョを二十個くらい食べてしまった。
アマゾンから注文しておいた本が届く。古井由吉『野川』。ほか、カミサンの本が三冊くらい。『ロダンのココロ』が入ってたなあ。
阿部和重『シンセミア』。ハードボイルド小説になってきた。『インディビジュアル・プロジェクション』的な仕掛けはあるのだろうか。
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八月十三日(木)
「こまやかなどうぶつ」
八時三十分起床。夏休みという割り切りが睡眠時間を増やしているようだ。いくら寝ても寝たりない。だが暑さと朝陽の鋭さが、どうしても寝かせてくれないのだ。猫たちは日の光と気温に上手に順応しながら、ぼくを起こしに来たりほかの部屋をうろうろしたりを繰り返している。
午後より外出。伊勢丹で裾上げをお願いしたパンツを引き上げ、そのまま小田急に向かい、十一階の美辞掴んで開催中の「牧野四子吉の世界 いきもの図鑑」を見る。図鑑の挿し絵を専門に手掛けていた画家の回顧展。こまやかなタッチで緻密かつ正確、しかし見るものに特徴をしっかり伝えるために最低限のデフォルメはしっかりとしているという、図鑑としては当たり前なのかもしれないけれど芸術としては不思議な画風。対象物のみを描き、背景は省略するという図鑑挿し絵ならではの描き方も、作品として鑑賞すると新鮮だ。細部へのこだわりが、生へのこだわり、生きるものの存在証明としての絵画なのかな、なんて思いながら鑑賞した。だが、最後のほうはいわゆる芸術作品を見るという感覚ではなく、おおこの動物は知らねえぞ、とか、こいつはヘンな形だなあ、なんていう見方に知らず知らずのうちに変わっていた。幼いころに図鑑のページをめくりながら興奮していた感覚が数十年ぶりに蘇った。
絵を見たあとに新中野のポレポレで公開中の「赤目四十八滝心中未遂」を見ようと思っていたのだが、思いのほか絵画展のボリュームが多くて時間がかかってしまったので、大人しく帰宅することに。夕食は豚肉とゴボウのエスニック鍋にした。夏なのに、鍋。これが意外に楽しいのだ。
島尾敏雄『死の棘』。トシオとミホ、ふたりの関係は大きなねじれから小さなねじれへと変化しているように見える。しかしそれは誤解や不満やわだかまりの規模が小さくなったのではなく、大きなねじれに大きな力がかかった結果、その結果ねじれの円周は小さくなったが以前より力のこもったねじれになった、という感じだろうか。
阿部和重『シンセミア』。うーん。おもしろいんだけど、ねえ。
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八月十四日(金)
「終わってしまった」
八時三十分起床。流れる汗を拭きながら、午前中は家の掃除。床を雑巾で丹念に拭く。拭く。拭く。それだけで午前中が終わってしまった。
午後は疲れたので横になったら三時間も寝てしまった。それだけで昼間が終わってしまった。
夕方、義母宅へ。単身赴任先から帰省している義父、現在某大手広告代理店に勤める義弟と焼肉屋で食事をする。
阿部和重『シンセミア』。盗撮サークルを脱会する主人公。さて、このあとはどう展開する?
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八月十五日(土)
「マメ」
終戦記念日。忘れない、ということが大切な日。だが、いつか忘れ去られるときが来る。むしろ、そんな日が来ることのほうが待ち遠しい。戦争の悲壮さと愚かさを気にする必要がない世界。それこそ理想の「非戦」ではないか。
八時起床。実家のある古河市へ。胃ガンで胃を切除し療養中のオヤジを見舞う。オヤジ、到着直後は「ゴハンを食べても気持ち悪くなってしまうので食欲がない、調子悪い」と連発していたが、ぼくらが「食べられないなら代わりに噛み砕いてやろうか」とか「顎を動かすの、手で手伝ってやろうか」とか冗談を連発してたら次第に気分が良くなってきたらしく、オフクロがとってくれた出前の蕎麦をペロリと平らげ、ぼくが持て余していたエビの天ぷらまで「くれ」と言いだす始末。帰るころには、ツッコミを入れる隙もないくらいによくしゃべり、よく笑ってた。十七時過ぎ、実家を出る。こりゃ、マメに来たほうが恢復が早いかななどと考えながら、陽が沈むまでもうすこし頑張って鳴いておこうかなとでも言いたそうな蝉たちのけたたましい合唱をBGMに駅へと急ぐ。
島尾敏雄『死の棘』。裏目に出ることの悲しさ。
阿部和重『シンセミア』。主人公夫婦の東京旅行。
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八月十六日(日)
「ダンナが異様に」
八時三十分起床。夕べは二十二時に床についてしまったから、十時間くらい寝ていたことになる。幼児のようだ、とわれながら呆れてしまった。
午後よりゲートシティ大崎へ。十数名の作家による動物をテーマにした作品展「都会の森のフシギ動物園」(だったかな?)を見に行く。チビッコ向けの企画なので、かなり作品が緩い。カミサンは参考になったかもしれない。ぼくは得るものがなかったなあ。
夕方、郡山から上京、というか帰省のためにこちらに出ていたプリザーブドフラワー作家のめぐちゃん夫婦と合流。ウチのカミサンとめぐちゃんとの合同展の打ちあわせ。ダンナが異様に協力的なので驚く。
打ちあわせ終了後は、「えんづ」で飲む。純レバ炒め、冷たく仕上げたモツネギ、里芋の唐揚げ、もずくと水菜と季節野菜のサラダなど。料理のおいしさに、めぐちゃんもダンナもにやけている。酒は麦焼酎の「えんま」、石川県の純米吟醸「常きげん」を飲んだ。「常きげん」はいかにも石川らしいしっかりした味わい。
「どんぐり舎」で珈琲を飲んでから別れる。
島尾敏雄『死の棘』。妻とのこじれた関係は、何度もふりだしにもどり、そのたびに深みへとはまっていく。
阿部和重『シンセミア』。ダンプカーによる無差別殺人事件と妻の浮気。
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八月十六日(月)
「ポヨポヨとは縁がない」
今日から仕事だ。そのせいだろうか、七時前には目が覚めてしまった。これは働くことがうれしいからか、それともその反対なのか。もったいないからあとすこし寝ようと思うがなかなか寝つけず、仕方ないので麦次郎の腹をウリウリといじったりしながら七時半まで時間をつぶした。起き上がりリビングへ向かうとぷちぷちが大喜びだ。カーテン越しに射す朝陽の明るさがうれしくてたまらないらしい。秋めいた涼しさの、麦次の腹についた脂肪のポヨポヨさとはまったく縁のなさそうな、さわやかに晴れた朝だ。
九時、事務所へ。まだ夏休み中の人も多いらしく、駅に向かう人の数はいつもよりほんのすこし少なく、そのぶんだけ妙にカジュアル、というよりだらけた服装が目についてしまう。
メールチェック。百通近いウィルスメールとスパムメール。うんざりする。
G社雑誌広告、G社プロモーション企画などを黙々と。休み明けのせいか、電話が妙に多い一日。二十時、店じまい。
夕食はゴーヤと豚肉の冷しゃぶサラダであっさりと。
阿部和重『シンセミア』。チンコが立たない主人公。ありゃま。
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八月十七日(火)
「愛好者ではないのだけれど」
五時、腹がゴロンゴロンに丸くなって寝返りが苦しくなり、肛門のあたりに何かがゴワゴワと溜まっていく感覚で目を覚ます。大便を催していたわけだ。あやうく寝グソするところだったかもしれない。急いで起床し、便所で『田中小実昌エッセイコレクション1 ひと』を読みながらたっぷりと出す。便秘がちというわけではないが、ウンコがどっさり出ると気持ちがよい。道を歩いているときも、気づくと朝に便所でヒリ出したウンコの量のことを考えていることがあるから質が悪い。スカトロ愛好者ではないのだけれど。ウンコ後、花子にゴハンを与える。
七時三十分、目覚ましの音で目が覚める。目覚ましの音でというのは珍しいことだ。ウンコして疲れてしまったのだろうか。
九時、事務所へ。午前中はG社雑誌広告、G社プロモーション企画。午後から外出。小石川で、蝉時雨に圧倒されながらL社へ。G社の件の打ちあわせ。その後、立て続けにE社の打ち合わせも。十八時、帰社。
帰社後はE社の企画。二十時、店じまい。
午前中、カミサンが麦次郎を健康診断に連れていった。結果をカミサンに教えてもらう。大きな問題はないが、細かな部分でバランスを崩しはじめているような印象。結石があるらしいので、ひょっとすると何か処置をしなければいけないかもしれない。猫だって、歳を取る。そして大抵、ぼくら人間よりも早く向こうの世界へ旅立ってしまう。いくつかの問題を解消するために、kaoriさんにバッチフラワーレメディを処方してもらうことに。
島尾敏雄『死の棘』。底なしの家庭不和。
阿部和重『シンセミア』。エッチな小説だよなあ。変態チックというべきかな。
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八月十八日(水)
「愕然と」
七時三十分起床。天気予報で最高気温を知り愕然とする。お盆を過ぎて三十四度とはどういうことだ。ここ数日は秋が近づく気配を確かに感じていたというのに。
九時、事務所へ。空はいつもよりずいぶん高い位置にあるように見え、数週間前はもくもくと分厚く威圧的にそびえていた雲が、今日はうすっぺらく細切れに、散漫と広がっている。空の表情は秋だというのに、気温だけは夏だ。歩くたびに頬から首、首から背中へと流れる汗はぬぐってもぬぐっても吹き出してきて、どうすることもできない。
G社チラシのコピー、G社プロモーション企画など。終日作業に没頭する。二十時、帰宅。
阿部和重『シンセミア』。盗撮、ストーカー行為。ふうん。
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八月十九日(木)
「最後の悪あがき」
七時三十分起床。眠ることが気持ちいいと思うようになった。思えばここ数年は眠りが浅いので、横になりつづけるのがどこか苦痛に思えていたかもしれない。熟睡できることの大切さ。
九時、事務所へ。盛夏に逆戻りした暑さだが、台風の影響か妙に風は強く、生暖かいというのに風力のせいかさほど暑くない。だが汗腺は正直で、流れる汗をどうすることもできないのは昨日と同じだ。最高気温は三十六度の予想らしい。夏の最後の悪あがき、といったところか。
G社企画、E社企画。夕方、カイロプラクティックへ。帰りがけにラオックスに寄り、税理士に勧められている、というより導入を迫られている新しい会計ソフトを見てみる。三万円ちょっとの出費。うーん。でも導入しないといけないからなあ。ついでに松下のイス式マッサージ器を体験してみる。ファミリーのものより力が強い。だが、その分粗雑な印象を受けた。
二十一時帰宅。夕食は「オリジン弁当」のお総菜でお手軽に。
阿部和重『シンセミア』。警官がコンビニにたむろする中学生たちを締めるところで上巻読了。ただただ、単純に物語としておもしろい小説。
便所でウンコしながら読んでいた『田中小実昌エッセイコレクション一 ひと』も読了。コミさん、晩年はあまり外で飲まなくなっちゃってたのね。軽妙なのに深淵な文体に魅かれて読み出したけれど、読み進めるうちにタナカコミマサという人間の生き方に興味を抱きはじめてしまった。
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八月二十日(金)
「やることが多すぎて」
七時三十分起床。目が覚めるとまずリビングのカーテンを開け、とりかごにかけておいた黒い布を取ってぷちぷちを起こしてやり、うがいをしたあとに水をコップ一杯一気飲みし、風呂の湯を沸かしそのあいだにコップを洗ったり凍っている青汁のパックを解凍したりするのだが、やることが多すぎるのかどうも要領が悪くて、寝返りでぐちゃぐちゃに皺の寄ったパジャマと寝癖だらけの頭でもたもたとあれこれしているさまはそうとうカッコ悪いと思う。もっとも、こういう日常の動作をカッコよく決めたがるというのは、地に足がついていないニンゲンの証拠かもしれないのだが。ふと、ぼくはどっちなのだろうかと尻をボリボリと掻きながら思った。
九時、事務所へ。夏の最後の悪あがき、馬鹿みたいに能天気な空に馬鹿みたいに能天気な入道雲がわきはじめている。風はあいかわらず強くて体感温度はさほど高くないが、空の馬鹿みたいな能天気さに、こっちの脳がやられそうになってしまうから油断ならない。
午前中は事務処理。見積をつくろうと思っていたら、偶然なのだが昔から見積書と請求書の作成につかっていた「ファイルメーカーPro」というソフトが、次期バージョンから旧バージョンでつくったデータと互換性がなくなってしまうことを知り、無性に腹が立つ。早々に手を打っておくべきと判断し、市販されている販売管理ソフトに乗り換えることにした。試用版をダウンロードしていくつかテスト的に使ってみる。
十五時、飯田橋のO社で打ちあわせ。十分で終わってしまった。
帰社後は事務処理とO社のデザインカンプの構成。二十時、業務終了。
阿部和重『シンセミア』下巻を読みはじめる。
島尾敏雄『死の棘』。嫉妬と憎しみに心を奪われてしまっている妻を病院へ連れていくトシオ。彼の無責任さというか逃避願望というか、そんな感情と家族を想う心――というよりは捨てられないという縛り、しがらみ――との葛藤の描写が秀逸。
『田中小実昌エッセイコレクション2 旅』を読みはじめる。ウンコ専用。
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八月二十一日(土)
「東京癒しの旅」
七時三十分起床。カミサンの中学からの友人である551が遊びに来る。体調を崩し長期療養中のため、kaoriさんを紹介してバッチフラワーレメディを処方してもらったり、猫が島のしまちゃんに気功整体のようなものをレクチャーしてもらったり。「東京癒しの旅」と化している。夜は「えんづ」で飲む。
話題の「冬のソナタ」最終回を見る。はじめて見たので今までの話の流れがよくわかっていないのだが、それにしても、ひ、ひどいエンディングだ。ふたりが出会ってしまったら物語は破綻してしまうじゃないか。
阿部和重『シンセミア』。警官の淫行と変態行為。
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八月二十二日(日)
「呆気なく」
七時起床。心配事があって眠れぬまではいかないが、少々早く目が覚めてしまった。花子はもともと日光に過敏な体質で、長時間ベランダなどで強い陽射しを浴びつづけると、瞼のあたりが赤くなり、湿疹のようなものができはじめる。体調が悪かったのか機嫌が悪かったのか、今回は花子めそれを掻きむしってしまったようで、左の瞼が大きく腫れ、目を開きつづけにくくなり、つねに涙が溜まっているような状態になってしまった。朝、様子を見ると腫れはかなり引いたようだが、まだ痒みは感じるらしく、ときどき手を目のあたりにもってきたり壁や家具の角にこすりつけてみたりしている。大事を取って、朝一番で病院に連れていくことにした。かゆみ止めの薬と点眼薬を処方してもらう。
午後からは夕べウチに泊まった551を連れて吉祥寺へ。一人暮らし生活快適化のためにベッドやテレビ台などを物色する。アジアンテイストや古い家具が大好きな551の好みに合ったものとなるとかなり数が限られそうに思えたが、ベッドは大塚家具で、テレビ台はパルコの地下にあるアジアン系が充実している雑貨店で呆気なく見つかってしまった。ほか、「ビレッジバンガード」で電話を、「外国家電」で鍋――電気製品じゃないけど、なぜかこの店には充実しているのだ――を購入する。ぼくらは花子と麦次郎の水飲みにと、カエルの雑貨専門店でブロンズのカエルをあしらった水鉢を買った。
夕食はネパール料理店「ナマステカトマンズ」へ。ほうれん草とカッテージチーズのカレー、マトンカレー、タンドリーチキン、モモ、サモサ。
阿部和重『シンセミア』。土建屋の市会議員とパン屋の争い。
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八月二十三日(月)
「戻ってくるかも」
七時三十分に起き、砲丸投げるほうの平井堅こと室伏が銀メダルを取ったとか野口なんとかという女性がマラソンで金メダルを取ったとか、そんなニュースを確認しながら身支度をして八時四十五分に家を出て、予想最高気温が二十四度と突然涼しくなったことに違和感を感じ、ひさびさに蝉の鳴かない西荻の街を歩きながら観察し、秋めいてきたというよりは季節が消えた一日、という感じかなあなどと考えながら事務所へ向かい、ちゃっちゃとメールチェックをし、四十件ものスパムメールに辟易しつつ今日一日の予定を整理し、九時半に事務所を出て茅場町に向かい、某広告代理店から印刷会社に転職したIさんの新しい会社に行って挨拶し、今日はさほど予定はないからと少々呑気に茅場町から東京駅まで雨を気にしながらダラダラと歩き、西荻窪の事務所に戻ってからは黙々と事務処理をこなし、十八時三十分に大崎へ向かいE社でPOPのプレゼンをしてからまた西荻に戻って、「草庵おおのや」で飲んでいるカミサン、551、それからふたりの高校時代の同級生のNさんと合流し、三十分で生ビールと日本酒一合、薩摩揚げと盛りそばという偏った夕食を済ませ、ふたりを駅まで送ってから家に帰ったら551が電車に乗り間違えたらしく、滋賀に帰る長距離バスに乗り遅れるかもしれんと電話があって、ひょっとしたらアイツはこれからまたわが家に戻ってくるかもしれない。
阿部和重『シンセミア』。盗撮サークル脱退を宣言しに、サークルの拠点だったビデオ屋へ向かう主人公、パン屋の博徳。
島尾敏雄『死の棘』。精神病院へ入院しはじめたミホ。病状はさらに湿った攻撃性を増幅させてしまっているように読める。入院という現状の中で、妻への愛情と逃避願望との間でふらりふらりとするトシオの心理。
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八月二十四日(火)
「どうやら無事に」
結局夕べ551は西荻に戻ってこなかった。どうやら無事長距離バスに乗れたらしい。
七時三十分起床。妙なくらい涼しい朝だが、秋めいたというよりは、ただ気温が下っただけという印象が強い。
八時三十分、事務所へ。見積、請求書などを慌てて済ませ、銀行振込の準備などしてから小石川のL社へ。E社打ちあわせ。つづいて麻布十番のO社へ。B社打ちあわせ。新規の案件。
十五時三十分、帰社。事務処理、O社パンフレット、B社チラシ。目が疲れたようで集中できない。二十時、店じまい。
阿部和重『シンセミア』。盗撮サークルにパン屋がハメられてしまいそう。
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八月二十五日(水)
「短く寝る」
睡眠時間を短縮する方法がある、と某特命巨大掲示板に情報があった。見ると、内臓に負担をかけないことでそれが可能になるらしい。流動食ばかり摂取すれば消化器官の働きが最小限になるため体力が温存できるということだろうか。理屈はよくわからないが、実際にこの方法で効果をあげている人もいるというから驚きなのだが、よくよく考えたら自分もここ数週間、平日の睡眠時間が減る傾向にあった。朝食を抜くことで胃腸を休ませる時間を十分に摂り、昼食は炭水化物中心に、夕食はたんぱく質中心に摂って、できれば十八時以降は食べ物を口にしない。一番最後の条件は仕事の問題もあって守れていないのだが、これを数週間つづけたところ、内臓への負担が減ったということだろうか、七時間は欲していた睡眠時間が、六時間くらいに減ってきている。この一時間、貴重といえば貴重なのだが、なぜかウダウダ、だらだらと過ごして無駄にしている。
六時三十分に目が覚めたが、七時三十分まで蒲団のなかでウダウダ、だらだら。
九時、事務所へ。E社POP、B社チラシなど。黙々と作業をつづけていたら腰が重たくなってきたので、十七時すぎに整骨院でマッサージしてもらう。隣で施術を受けていた二十代後半くらいの妙にあまったるいシャンプー――なのかな?――の匂いをあたりにプンプンさせているおねーちゃんは、本当は今日は休みなのだが、なぜかゴミ出しの手伝いをするために、これから勤務先に向かうのだという。ブツクサと文句を言っていたが、その口調が軽くて明るいから、きっと彼女は職場が好きに違いない。ディズニーランドの年間パスポートをもっているらしく、担当の先生とテーマパーク談義、というよりも浦安のネズミ談義で盛り上がっていた。整骨院は、ふだん絶対に接触することがないタイプの人たちの話が聞けるので――聞き耳を立てるのは失礼かな? でも職業柄、ついつい「ネタ発見」というスタンスで聞き入ってしまうのだ――重宝する。
二十時三十分、店じまい。
阿部和重『シンセミア』。台風による洪水。妻のコカインを偶然発見してしまった主人公の博徳。
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八月二十六日(木)
「踏ん張らずとも自然に/秋を掴む」
腸だけを誰かに指でつままれ、そのまま真上に引き上げられるような感覚で目が覚めた。六時五十分。ああ花子にゴハンをあげなきゃ、と起き上がると、そのつままれ引き上げられた感覚はたちまち腹痛へと変化した。肛門から緊張が頭のほうへと急速に駆け上がるように広がってゆくのを感じ、便所へ掛け込むと踏ん張らずとも自然に出た。青汁を毎日飲んでいるせいか、緑色を帯びたおかしな便だ。
花子にゴハンを与えるが、瞼の炎症の治療のために日光に対する皮膚の過敏な反応を抑える薬を混ぜなければいけない。だが混ぜるとすぐそれに気づいて食べない。魚が苦いんだろうな、と思う。カツオブシをかけて誤魔化してみたが、上手にカツオブシだけを食べるので困ってしまう。
九時、事務所へは向かわずに駅へ。小石川へ直行し、十時よりL社のTさんらとG社のモバイルサイトの打ちあわせ。つづいてNさんらとE社POPの打ちあわせ。
数日前まではけたたましい蝉時雨が暑さを増幅していた環三通りだが、今日はまったく聞こえない。桜並木の葉色がずいぶんと褐色を帯びはじめ、くすんだ葉が何枚か歩道に落ちている。秋めいてきたなあと感心しながら歩いていたら、目の前に他のものよりもさらに黄色く染まった葉が一枚、ひらりと落ちてきた。手を伸ばしたら掴むことができた。数秒ほど、左手の上でもてあそんでから路上に置いた。秋だなあ、ともう一度思う。だが、まだ暑い。流れる汗は夏のものだ。
午後からは黙々とG社、E社に没頭する。二十時、店じまい。
「今野書店」でヨガと整体法の本を買ってから帰宅する。
島尾敏雄『死の棘』。ミホには分裂症の疑いがあることが判明する。ひとりでは子どもたちを世話することもできないトシオ。なにが家族を結びつけているのだろうか。わかるが、見えない。見えるけど、わからない。そんな状態を繰り返すトシオ。
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八月二十七日(金)
「コントじゃないんですけど」
七時起床。八時、事務所へ。夕べは二時床に就いたから、五時間睡眠か。少々眠り足りないのだろうか、それともたんに夏の疲れか、油断していると眠くなる。歩いているとき、集中してコピーや企画を考えているときは大丈夫なのだが、ふっと気がゆるんだ一瞬が危ない。十一時から打ちあわせのために飯田橋のN社に向かったがすぐに着手するような作業はなく、ぼくがコピーを書いたG社の雑誌広告も好評だと知らされ、かなり気がゆるんだのだろうか、帰りの電車ではコクリ、コクリとコントによく出てくる終電車の酔っ払いサラリーマンのような醜態を晒してしまい、気づいたらコクリ、コクリはしていなかったが、吉祥寺まで乗り越してしまった。
十九時ごろ、仕事は終わったが愛用しているPDA、ソニーのCLIE PEG-NX73Vのソフトウェアが壊れてしまい、復旧に一時間かかってしまう。バックアップデータを使うことでことなきを得たが、バックアップは今朝十時ごろに行ったから、それ以降に入力したものはすべて消えてしまった。ショック。二十時、帰宅。
阿部和重『シンセミア』。洪水。非難する神町の人々。
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八月二十八日(土)
「子連ればっかし」
十時起床。昨日寝たりない分までしっかり寝ておいた。
午後より外出。明日は猫好きの友だちがわが家の猫をいじりにやって来るので、その準備というほどでもないが食材などを買いだしに吉祥寺へ。夏休み最後の週末のせいか、親子連ればかりが目立つ。わざわざ人手の多い街中に家族三人、四人で出てきて、幼稚園や小学生の子どもは路上や売り場で駄々をこねたり踊り狂ったりし、母親は遠くから「パパー、パパー」とややヒステリックに叫びつづけ、父親は少々疲れた表情をなんとか隠しながら、子どもの暴走に付きあいつづける。子どものいないぼくらにとっては彼ら親子の行動は少々わずらわしく見えてしまい、それだけでひどく疲れてしまった。来週から学校がはじまるためこの週末はあれこれしておかなければ行けないこともあるのだろう。母親のヒステリックな叫びの原因はおそらくここにある。父親は夏の最後の家族サービスという暗黙の義務もあるに違いない。自分に子どもがいたら耐えられそうにないのだが、いざ家族をもってみれば、これくらいのことはなんでもないと感じてしまうようになるのだろうか。
十七時、帰宅。明日のおもてなしのために料理の仕込みをする。
阿部和重『シンセミア』。走るなんちゃって仮面夫婦。
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八月二十九日(日)
「のんだくれた」
ねこがすきなひとたちとおさけをのんでごはんをたべてだらだらしてときどきねていたら、いちにちがおわってしまいました。おしまい。
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八月三十日(月)
「薄れる」
七時五十分起床。頭が痛むような宿酔いには襲われなかったが、小型の台風が胃袋から食道に向かって北上してくる感覚がある。だが半身浴をしたらかなり落ち着き、ごくふつうに出勤することができた。ただし、食欲はまったくない。
オリンピックが終わった。日本人がメダルを取るということに、後半は麻痺してしまったようだ。ここまで快調だと感動が薄れる。
九時十五分、事務所へ。E社POP、G社モバイルサイト企画。十六時、原宿にあるデザイン会社D社にてE社POPの打ちあわせ。駅から七、八分歩くのだが、歩くたびに湿度が高くなり、じっとりと全身が湿気に覆われてゆく。
二十時、店じまい。夕食は残り物であっさりと済ませた。昨日は三日分くらいは飲み食いしたからなあ。
島尾敏雄『死の棘』。精神科医にさじをなげられてしまった。うーん。戦後十年くらいの設定の話のはずなんだけど、現代性が高いというか、テーマがまったく古びていないんだよなあ。
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八月三十一日(火)
「秋は夜から」
台風一過。もう九月、すこしずつでも涼しくなるはずだと確信していたのは先週のこと。今日は本当にこの一日で八月が、夏休みが終わるのかと疑問に思うほどに暑い。だが朝晩はさほど気温も上がらず肌寒さを感じることもあるのだから不思議だ。秋は夜からやって来るらしい。
八時起床。九時、事務所へ。午前中は銀行めぐり。午後、小石川のL社、原宿のD社とハシゴ。小石川の桜並木の蝉はすっかり元気を失っている。夕べの台風で疲れたのだろう。十八時、帰社。二十一時、店じまい。
仕事の取材のために「牛角」で夕食を摂る。それ以上のことはノーコメント。
島尾敏雄『死の棘』。悲劇はそれまでのパターンを激しく逸脱しながら、結局は出発点に舞い戻ってくる。
阿部和重『シンセミア』。死体遺棄事件。
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