「蹴猫的日常」編
文・五十畑 裕詞

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April 30, 2002
「災い転じて福となす」


 連休の中日。のんびりモードになるかな、と思いきや、朝から全力疾走に。判断がすべて裏目に出た。対応に追われ続ける。
 ところが。夜になると、裏目に出たことが最終的にはよい結果となってしまった。災い転じて福となす。身を持って理解できた。ついているのだろうか。
 「浄徳寺ツアー」。あれ、あと3ページというところで、テーマがわかんなくなっちゃったよ。あ、そうか、血だ。血。
 「重力の虹」。あと10ページくらいで、「ゾーン」でのエピソードが終わる。まだ先は長い。


 
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April 29, 2002
「エネルギーのかたち/日本インド化計画/読書要約文のすすめ」


 連休三日目、みどりの日。ゴールデンウィークにふさわしい、いい天気。二日早いけど、五月晴れだな。
 午後より外出。カミサンと「岡本太郎美術館」に行く。表参道駅からスパイラルの前を通り、骨董通りを抜けて左に曲がると、心地よい違和感の感じられる空間が目に留まる。そこが岡本美術館だ。アトリエのあった旧邸をそのまま美術館にしている。一階はカフェ。庭には太郎作のオブジェが緑とともに並んでいる。館内に入ると、リビングルームでおなじみの爆発ポーズをとった太郎の人形がぼくらを出迎えてくれる。本物がいると勘違いしてしまい、度肝を抜かれた。設置された絵画などもじっくり鑑賞。思うに、絵画の方は臨界点ギリギリのエネルギーや本能の高まり、ゆらめく情念のかたちなのではないだろうか。それらが体の外に吹き出したもの、エネルギーが形を得たものが彫刻やオブジェなのではは…、なんて感じた。画集を何冊か買い込んで退館。
 続いて原宿の絵本専門の書店「クレヨンハウス」へ。書店には入らず、併設されているカフェで昼食。カミサンは旬菜のサラダランチを、ぼくは牛肉&大豆のカレーランチを。二日連続カレーだが、ぼくは日本インド化計画に賛同したこともあるくらいのカレー好き(知らない人は筋肉少女帯の歴史をたどってみるべし)。カレーなら毎日だってかまわない。むしろ大歓迎だ。店内を見渡すと、やはり小さな子どもを連れた夫婦が多い。隣の席では、最近幼稚園でひらがなを覚えたのだろう、子どもが一生懸命自分で絵本を読んでいる。反対側の隣では、母親が朗読する絵本の内容に子どもが聞き入っている。これが大きくなるまで続けば、きっと読書や作文が好きになるのだろうな。ぼくは読書嫌いや作文嫌いの人を大量に生み出した元凶は、夏休みの「読書感想文」にあると思っている(井上ひさしさんの受け売り的な部分もあるんだけどね)。無理矢理推薦図書を読まされる。そして、無理矢理感想文を書かされる。動機がすべて受け売りなのだ。それに、一冊の本の内容を要約して伝えるだけでも大変だというのに、それよりさらに高度な感想を書くなんて無茶というものだ。強制されること、そしてその出来上がりをことばや書物のことなどまるでわかっていない教師(もちろんそうじゃない人もいるけどね)に批評され、点数をつけられてしまうのだ。これじゃ読書や作文が嫌いになって当然だ。子どもの頃、本を読んで楽しいと思った気持ちをいつまでも保ち続けることができるようなカリキュラムを実現してほしいものだとつくづく思う。夏休みは読書感想文ならぬ「読書要約文」をやるべきじゃないか。何冊でもいい、とにかく自分の読みたい本を読む。そしてその本の内容を要約して伝えてもらう。この「要約」の過程のなかから出てきた気持ちを表すひと言こそが、ほんとうの「感想」なのだ。
 新宿に移動。伊勢丹のバーゲンでカットソーなどを購入してから帰宅。
 夕食はまたまたぼくの「オトコの料理」。今日は酢豚だ。出来は上々。ちょっととろみが足りなかったかな。
 「浄徳寺ツアー」。どんなに登場人物や背景などの設定が変わっても、私小説は私小説だ。

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April 28, 2002
「モー娘。絶ち/花子脱走事件/名前が変わった/決め手はメース」


 連休二日目だが、いつもとさして変わらぬ平穏で平凡な日曜日。
 麦次郎の猛烈なあまえと花子の起きてよ攻撃で十一時に目を覚ます。今日も惰眠、惰眠。パジャマのまま「ハロモニ」を見る。いかん、中毒症状を起こしている。しばらくモー娘。絶ちをしたほうがいいかもしれない。志村けんとミニモニのユニット「アイーン体操」をはじめて聞く。絶句。
 昼過ぎ、天気を確認するためにベランダに出ようとしたら、その隙に花子が脱走する。我が家は二階だから道路に出てしまうことはないのだが、この馬鹿娘はいつもベランダの柵を越え、お隣のベランダと我がベランダの間にある30センチ四方のデッドスペースに入り込み、そこでくつろごうとする。脱走は久しぶりだったが、どうせそのデッドスペースから移動できるはずがないのでしばらく花子をほったらかしにしてみることに。といっても二分程度だったのだが、いったん部屋に戻ってから再度覗きににってみると、心細そうな顔つきで僕を見つめ、こまったように「にゃあ」と鳴いた。ベランダを乗り越えてそのスペースに降りてみると、花子のヤツめ、すぐさまぼくにとびつく。だっこしてやると、そのまま我が家のベランダの方へスタッと飛び降り、そのまま足早に家の中に引っ込んでしまった。二分の間に、そうとう怖い思いをしたらしい。ふふふふふふふふふふ。
 午後よりフィットネスクラブへ。名称が「セレ荻窪」から「エグザス スポーツクラブ荻窪」に変更になってからはじめての利用だ。なんということはない。ロゴが変わっただけであとはすべてがいつもどおりだ。VIってやつだね。以前新聞で、コナミの幹部が「フル装備型のエグザスよりも簡略型のセレのほうが収益が大きくなる」と語っていた記事を読んだことがあるのだが、今回のVIはその一環かな。今日もヨガに参加。どうやらぼくは脚の裏側が極端に固いらしい。
 帰りがけに荻窪ルミネのCDショップ「新星堂」へ。半年ぶりにCDを購入する。村治佳織「レスプランドール」、キング・クリムゾン「LEVEL FIVE」。坂本龍一の新譜も欲しかったのだが、すぐに目に付かなかったので購入せず。村治さんのいかしたポストカードをいただく。そういえば「アランフェス交響曲」を買ったときはポスターをもらったなあ。持て余してしまい、そのまま捨ててしまったっけ。
 Tシャツまつりに出品する作品を制作中のカミサンの様子を伺いに、CDの袋を抱えて事務所へ。まず「レスプランドール」を聞く。聞き易いねえ。最近はこの程度の軽い感じのクラシックがお気に入りだ。ジャズやロックはほとんど聞かなくなってしまった。興味が薄れてきた、というのが本音。クリムゾンやシルヴィアンは別格だが。でも彼らの作品が事務所や自宅のCDプレーヤーにセットされることはかなりまれになっている。もっぱらクラシック。わかりもしないくせに、クラシック。
 事務所のテレビで「サイボーグ009」を見てから帰宅。エンディングテーマが変わった。
 帰宅後は、おちついた週末恒例の「オトコの料理」。今日のメニューはキーマカレーだ。玉ねぎをみじん切りにし、バターで色が変わるまで炒めたらすりおろしたニンニクとショウガを加えてさっと鍋をかき混ぜ、つぶしたホールトマトとターメリック、クローブ、チリペッパー、クミン、コリアンダーを加えて、なじんだらそこに鶏挽肉を加えて水分がなくなるまで煮込む。風味付けにメースを少々。ほんとうはクラムチャウダーのような海鮮ものに使うらしいのだが、ぼくはカレーに入れちゃう。仕上がりがちょっと上品な感じになるのだ。最後にガラムマサラを加えてできあがり。ごはんはもちろんタイ米だ。カミサンは牛肉とパクチイ(コリアンダーの葉)、玉ねぎ、レタスをナムプラーをベースにしたドレッシングで和えたエスニックサラダを作ってくれた。アジアンな食卓に舌鼓。
 「スコッチと銭湯」田村隆一。「食堂車にて」というエッセイで引用されていた吉増剛造の「朝の手紙」という散文詩に惚れ込んでしまった。「自由」と肉体。
 「重力の虹」。これは冒険小説だな、と思った。気付くのが遅いかな。

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April 27, 2002
「新・なまけ猫王国/夢の女と酒と阿片/髪型でキャラづくり/食べ物を粗末にしちゃいかんぞ」


惰眠。惰眠。惰眠。で、十時三十分に起床。世間はゴールデンウィーク初日ということになるが、あんまり関係ないなあ。長袖Tシャツの上からデヴィッド・シルヴィアンのライブのときに買った藤原新也エッチング入りTシャツを着て、その上からYohjiのシャツジャケットを羽織り、十二時、事務所へ。
 溜め込んだ原稿や企画はとくになし。見積を何件か作成。三十日の午前中に再確認をしてから提出する予定だ。二時間遅れでカミサン出社。新「なまけ猫王国」作成ファイルの最終チェックを済ませ、FTPで会社のサーバにアップする。リニューアル完了だ。CGIもきちんと動いている。これで一段落。西友でオーガニック発泡酒を1ダースほど買い込み、帰宅。
 陽が落ちてからはちょっと肌寒くなったような気がする。鍋が恋しくなる。というわけで、夕食はチゲ鍋。辛い熱いといいながら鼻水を垂らし、買ったばかりの発泡酒を浴びるように飲みながらテレビ東京の「美の巨人たち」を見る。ラファエル前派の画家・ロゼッティの作品が紹介されていた。あまりなじみのない画家。ダンテの作品に登場する女性・ベアトリーチェを夢想し続けた彼は、交際する女性たちにベアトリーチェの具現化を求める。彼の夢を満たす対象。その「対象」の死と自責の念、そして酒と阿片におぼれる日々。絵に描いたような破滅型芸術家だ。しかし、作品は破綻していない。
 番組終了後はそのままリビングでダウン。気がつけば十二時半。二時間近くうたた寝してしまった。脳に霞がかかっているような気がする。体は鉛筆の芯になったような感じだ。妙なだるさ。堕落しているな。
 入浴後、つけていたテレビで偶然放送されていた新日本プロレスの「ワールドプロレスリング」を見る。何年ぶりだろう。蝶野が出てる。プロレスラーの顔と名前くらいは知っているが、情報収集源はもっぱらバラエティ番組。彼らのファイトを見るのははじめてだ。面白いなあ、演出が。それからレスラーの髪型。キャラクターを作るための重要な要素なんだろうね、きっと。
 花子と麦次郎が、ネットに入ったニンニクに釘付け。手でパシパシ叩いて遊んでいる。妙なものに目をつけられちゃったな。食べ物を粗末にしちゃいかんぞ。


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April 26, 2002
「非凡なる平凡」

 七時三十分起床。支度を済ませて朝イチで代官山へ。制作物を納品して帰社。電車のなかで中上健次「浄徳寺ツアー」を読みはじめる。まだよくわかんないや。
 午後は月末の事務処理に終始。特筆すべきことがなーにもない一日。平凡なようだが、じつは大変珍しい状況だ。非凡なる平凡。


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April 25, 2002
「ゲロ爆弾/ほとんどメール爆弾」

 七時、麦次郎のゲロを吐く音で目を覚ます。うわ、ゲロ爆弾の炸裂だ。カミサンと二人で大慌てでゲロの始末をする。ぼくがカーペットの上に飛び散ったゲロの始末係。うわわわ、四ヶ所もある。しかも全部が水っぽい。カミサンは新聞紙をもって、さらにゲロゲロとやりそうな麦次郎を追跡。吐いたらすぐに新聞紙でキャッチするためだ。このパニックで睡眠時間を三十分失う。これもまた昨日のすけすけホモちんこの呪いか?
 午前中はウェブデザイナーと打ち合わせ。午後からはウェブサイトの画面構成を考えたり、コピーを書いたり。まあ平穏。物忘れもない。
 夕方より進行中物件の赤字対応に追われる。メール爆弾並のデータ量をデザイナーとやりとりするが、トラブルが起きても不思議でないくらいに危険な状態に。やむなくデータをメディアに落とし込み、人間バイク便で運搬することにした。はあ、非効率。でも確実だ。
 「重力の虹」。スロースロップはいつになったら豚の着ぐるみを脱げるのだろうか。誰も彼を<ロケットマン>だと認めてくれない。


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April 24, 2002
「すけすけホモちんこ」

 八時起床。身支度をしてさあ出発、自転車置き場から愛車を出そうとしたら、隣に止めてあった子供用マウンテンバイクのかごのなかに、いかがわしそうな写真が入っているのに気づいた。手に取ってみてみると、それは予想通りのエロ写真。しかも、ちんこすけすけ美少年のホモ写真5枚組だ。予想以上に強烈。もちろん、すぐに捨てることにしたが…思えばこれが今日の不調の元凶だったのかもしれない。すけすけホモちんこに呪われたのだ。
 異常なくらいに忘れ物ばかりする一日だった。どんなに気をつけていても、何か忘れてしまう。原因は突発的に起きる仕事のトラブルや不測の出来事。つねにいくつものことを同時進行で片づけなければならなくなっているのだが、今日は限界がきていたみたい。脳味噌のなかに短期記憶がみっちみちに詰まっている感じ。余裕がないのだ。でも明日には峠を越えるはずだ。何も忘れないでいられる…と思う。
 「ゴヂラ」。…これは文学の遊びなのか、はたまた真実を見極めるための過程なのか。わからん。
 「火宅」完読。過去と現在が複雑に絡み合った物語。場面の移行の仕方が美しい。中上作品を読むと、自分の「血」の意味や価値について考えざるを得ない。血には意識がある。


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April 23, 2002
「未消化とトホホ」

 うわ。気がつけば九時十五分。寝坊だ。慌てて支度する。こんなの、何年ぶりだろう。
 午前中はM社のウェブサイトのデザイン案のチェックなど。うーむ、未消化。
 十四時、税理士のM氏と打ち合わせ。トホホな決算報告ができあがった。
 「重力の虹」。フリーメーソンと幽体離脱。幽体離脱イコール重力からの解放? イメージがロケットと重なり合う。違う点は、ロケットの操作は(この物語のなかでは)意のままにならない、ということ。


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April 22, 2002
「恩恵と代償」

 
七時四十五分起床。鳥かごの掃除をしてから朝食を済ませ、事務所へ。昨日はフィットネスジムへ行かなかったので、月曜の朝お決まりの筋肉痛がない。といっても、いつもの筋肉痛、さほど堪えるほどではないのだが。
 「フィガロの結婚」を聞きながら掃除。BGMとはいえ、自分から音楽を聞こうとするのは久しぶりのことだ。自分のなかで音楽が占める割合がどんどん少なくなっている。大好きな(はずの)デヴィッドの音楽もほとんど聞いていないのだ。
 午前中、DTPデータのトラブル発生。中ゴシックBBBはアウトライン化ができないことによるミス。動揺したが、なんとか解決。あらゆることに熟知していなければ仕事を進めることができない。デジタル化によって、クリエイターの負荷は間違いなく増えている。恩恵と代償、どちらが大きいのだろうか。
  近所の古本屋にて100円で「ビッグコミックスピリッツ」購入。このくらいの出費が今のスピリッツにはちょうどいい。巻頭のグラビア、ずっとこの路線のままなのだろうか。もうやめて、お願いだから。「美味しんぼ」。おお、定番「嫌いな食べ物を山岡が好きにさせちゃうぞー」ストーリー。かと思ったら、ちょっとだけ違っていた。玉ねぎの種類に関するうんちくはためになったかな。でもつまらん。
 「重力の虹」。戦前のアメリカの庶民文化をピンボールに託して抽象化したような描写。いや、ピンボールについては具体的なのだが。そして、やっと明らかになったブランドとスロースロップの接点。
 「ゴヂラ」。石神井公園から脱出できない男のエピソード。谷川俊太郎と、アイドルの名を持つ五人の老婆。


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April 21, 2002
「家電買い物電光石火/私小説/生き返る手帳/毒草メモ/誤植」

 夕べは結局飲んだくれたりしなかったのだが、それでも十一時まで熟睡してしまった。花子が胸の上に乗った重みで目が覚める。うう。呻きながら花子を抱き上げ起床。外は雨。つまらないから起こしにきたのだろうか。
 午後より新宿へ。まずビックカメラヘ。先週壊れてしまったビデオの後継を見つくろいに行く。ポイントがおよそ2万円分溜まったので、それを有効活用しようという魂胆だ。なるべく安くていいものを、と考えつつAV機器売場を物色していると、シャープのS-VHS ELに対応した商品が19,800円で売られているのに目がついた。おお、これ、良さそうだぞ。小電力型だし、Gコードにも対応している。決定。入店後ものの5分で購入。家電買い物電光石火。
 続いて紀伊国屋へ。財布が痛んだ訳ではないのだが、ちょっと大きな買い物をした後なので、欲しい本は山ほどあるのだが買うのは控えることに。さらっと見流してからアドホックへ。文具売場をちらりとのぞいてみる。新入学シーズンも一段落したためだろうか、3月はユニクロ並に混雑していた手帳売場が閑散としている。ボールペンなどをチラリと見てからトイレを拝借し、またまた早々に退散。東急ハンズへ。こちらも相変わらずなのか新生活シーズンの佳境だからなのかよくわからないが、人人人でごった返している。ふう。あて布いらずでアイロンがけができるというアイロン用のカバーと、革製品の手入れ用クリームを購入。混雑は嫌なのでさっさと帰ることに。
 電車の行き帰りに中上健次「火宅」。伝聞、記憶、そして現在が静かに錯綜する。「彼」が主人公だが、これは私小説だ。切なくなる。
 事務所により、ちょこちょこと雑用を。カミサンは「なまけ猫王国」のリニューアル作業に精を出している。5月には公開できそうな感じだ。Javascriptに苦戦している模様。大変そうな作業を横目で見ながら、ハンズで買ってきた革用クリームを開封。最近、お気に入りの手帳がなぜか色が抜けて白っぽくなってきてしまったのだ。おそらく使っていた透明のクリームが手帳の素材であるベビーカーフに合わなかったのだと思う。今度は色つきを買ってきてみた。ちょっと靴墨っぽい感じなので心配だったが、仕上がりは上々、大満足だ。手帳が生き返った。事務所のテレビで「サイボーグ009」を見てから帰宅。
 夜は五十畑家特製お好み焼きを食べながらだらだらとテレビを見て過ごす。「特命リサーチ200X-II」で毒草の特集をしている。食べることはまずないとわかっていながらも、紹介された植物をメモしてしまった。だって、おもしろいんだもん。
 「重力の虹」。誤植を発見した。


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April 20, 2002
「涙腺にホールインワン」

 目が痛む。鏡を見たら、目のなかに髪の毛が入っていた。取れば痛みは消えるかな、と思ったがなかなかとれない。仕方ないので近所の眼科に行く。間抜けだ。受付で「目に髪の毛が入っちゃったので、取ってください」と言ったのだが、言っている自分がなぜか情けなくなった。待つこと三十分。順番がきたので診察室に入って先生に目玉を見てもらう。目になにやらよくわからん薬を付けられ、顕微鏡のお化けみたいな器具で目玉を覗かれ、光を当てられ、瞼をぐりんぐりんとひっくり返された。診察結果は「毛がはいっちゃったんですねー」。だから、それはよーくわかってるんだって。毛をとってもらう。先生はピンセットを目に近づけると、ちょいちょいっと毛をつまみ上げ、ひゅーっとそれを引き抜いた。そう、引き抜いたのだ。ピンセットの先には、本当に目に入っていたのかと疑いたくなるくらいに長い髪の毛が。まさか、こんなに長いのが入っていたとは。どうやって紛れこんだんだ? 先生曰く「涙が出てくる穴があるんだけど、そこに髪の毛がすっぽり入っちゃったんだねー」。髪の毛が涙腺にホールインワン、というわけか。あーあ、痛かった。
 午後からはお仕事。もくもくと原稿を書き続ける。
 二十二時、帰宅。今日はお酒を飲んだくれようと思う。


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April 19, 2002
「問1:カントリー娘。に石川梨華/問2:雌豚と豚の衣装の意味」


 今日も落ち着いた一日。やるべきことは山ほどあるのだが、誰からもしつこく追い回されなかったのでマイペースを保つことができた。自分のペースで仕事をすることがこの上ない贅沢のように思えてくる。
 だが、落ち着いているのも問題。日記に書くことが少なくなってしまうのだ。
 帰宅後、藤原紀香と今田くんが司会をしている深夜番組を見る。カントリー娘。が新曲を歌っていた。おいおい。どこがカントリー? チャーミーが借り出されている状態は相変わらず。さて、このグループのアイデンティティとはいったい何なのでしょうか。
 「重力の虹」雌豚に導かれ、ツヴェルフキンダーでロケット技師ペクラーと出会うスロースロップ。もちろん豚の衣装を着たままだ。ここで問題。さて、この「豚」とは何のメタファーなのでしょうか。


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April 18, 2002
「若返る/なんだこりゃ」


 比較的余裕のある一日。十分こなせるスケジュールを、マイペースで進めていく。これがいちばんストレスのないやり方なのだが、現実は厳しい。ところが今日はそんなに厳しくなかった。午前中に一時間ちょっとだけ時間が空いたので、髪を切ることに。予約の電話を入れて十五分後には店にいた、という素早さだ。後ろで髪を結べるくらいのばしていたのだが、思い切って短めにした。うーん、すっきりさわやか。カミサンに「若返った」と何度もいわれる。鏡を見ているとたしかにそんな気がしてくる。
 午後からはB2Bマーケットプレイスのビジネスモデルを展開しているA社の会社案内に没頭。ITソリューションで商売している会社の事業ドメインやサービスの詳細を把握するのはなかなか大変なことなのだが、意外にすんなりと進めることができた。
 「重力の虹」。豚の衣装を着て、雌豚と放浪の旅をするスロースロップ。なんだこりゃ。


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April 17, 2002
「激動」


 電話が鳴りっぱなしで、夜までぜーんぜん集中できない一日でした。おしまい。


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April 16, 2002
「平穏」


 比較的ゆとりのある一日。いつもは自転車で事務所に行くのだが、今日は歩いていくことに。なにか面白いもので見つけられるかな、と思ったが残念ながら収穫なし。
 夕方、打ち合わせのためI社へ。移動中の電車のなかで、中上健次「黄金比の朝」完読。初期の作品、おそらく処女作だと思うのだが、文体に青臭さがあるものの家族に対する愛憎、色欲、社会への反発といった中上文学のテーマの鱗片が随所に伺える。
 二十一時過ぎ、帰宅。なんだかメリハリのない一日だったが、明日からはまたハードスケジュールがはじまる。鋭気を養っておこう。
 「重力の虹」。あと残り1/4。いつ読み終わるかな。
 「ゴヂラ」ほんとうに「レノン」や「虹の彼方に」の頃に回帰しているな。「優雅で感傷的な日本野球」も近いかもね。個人的には「ゴーストバスターズ」が好きなのだが。

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April 15, 2002
「選んだのは、キャバクラでした/へんちくりんだなあ/再出社/マンダラ?/金子光晴?」


 ワイドショーにばかり気が向いてしまう朝。理由はユウキがEE JUMPを脱退したからだ。原因はキャバクラ通いと飲酒がばれて「これ以上ソニンと事務所に迷惑をかけられないから」だそうだが、要するにこれは芸能活動とキャバクラのねーちゃんを天秤にかけて、最後に選んだのはキャバクラの方だったということなのだろうか。事務所が発表した資料はそのようにしか読みとれない。…ひょっとしたら事務所はやっかい払いができたと思っているのかもしれない(なんて書くとユウキのファンから怒られそうだが)。ソニンちゃんは以前ある番組で「ユウキがいないときの方が楽しかった」というような発言をしている。確かにピンで歌っていたときのソニンちゃんはよかった。EE JUMPの馬鹿っぽさとソニンの内面は、あまりうまく重なり合わないのだろうな。
 EE JUMPの情報集めもほどほどに出社。溜まりに溜まっていた事務処理に今日も精を出す。最高気温25度。事務所のなかにぼわっと熱気がこもっているような気がする。窓を開けたら、初夏の風とはおせじにも言えないような、へんちくりんな感じの突風が吹き荒れていた。書類や原稿が、窓から吹き込んだへんちくりんな風にあおられてへんちくりんに舞う。仕方ないので窓を閉めた。
 二十一時、帰宅。夕食を済ませるとクライアントのI社から携帯に電話。納品した企画書に不備があったとのこと。あわてて再出社する。こんなときはいつも自宅と事務所が近くてよかったと痛感するが、そもそもこんなことはそうちょくちょくあってはいけないこと。利便性を感じること自体、ほんとうは悪いことなのだ。ちゃっちゃと仕事を済ませて一時に帰宅。ふう。
 「重力の虹」。エンツィアーンたちの居場所を突き止めたらしいスロースロップ。「マンダラ」は何の暗喩なのだろう。構造か。調和か。
 昨日の夜から、つまり日記を書き終えてから高橋源一郎の「ゴヂラ」も読みはじめた。おとなしめの「ジョン・レノン対火星人」といった感じか。漱石、鴎外の両名がどうしても「ジョン・レノン〜」のときの金子光晴とだぶってしまう。キャラクター設定も役割も違うとは思うのだが。



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April 14, 2002
「花子、寝坊する/失笑と絶句のモーニング娘。/ゼッケン、外せよ/失敗チャーハン/写真と岡本太郎」


 花子が珍しく寝坊したらしい。いつもなら朝五時半か六時くらいにぼくを起こしてご飯を用意しろと命令するのだが、今日はぼくが九時過ぎに目が覚めるまで、花子のヤツも熟睡していたようだ。ぼくの気配に気付くと花子はあわてて起き出し、ご飯ご飯と騒ぎ出した。ふふふ。
 昨日作ったカレーでブランチ。しょーもない、と思いながらもまたまた「ハローモーニング」を見てしまう。保田のコギャルメイクに失笑。石川の牛に絶句。
 午後よりフィットネスジムへ。いつものメニューとヨガ。帰りがけに変なオッサンを見かける。マラソン用のランニングシャツを着たピッチリ横分けヘアの中年男性なのだが、なぜか胸の部分に「いちのみや市民マラソン」のゼッケンを付けていた。…理解できん。今日はその大会帰りなのだろうか。はずせばいいのに。見せたかったのかな。
 今日も気が乗ったので、夕食を作ることに。メニューはエビチャーハン。…だが、失敗。エビはしっかり紹興酒で下味をつけたのに…。敗因はご飯。胃の調子が悪いときに炊いたやわらかめご飯の残りを使ったので、ぱらりと仕上がらなかったのだ。くやしい。来週はリベンジだ。
 教育テレビの「新日曜美術館」を見る。ゲストは老人力、路上観察、そしてライカでおなじみの赤瀬川原平氏。今日の副題は「岡本太郎・日本を撮る」。写真から見た岡本太郎の世界がテーマだ。獅子踊り、通天閣と鯉のぼり、沖縄の巫女…。岡本太郎に切り取られた1950年代の「日本」が次々と現れる。絵の材料として写真を撮っていたのだと思うが、被写体選びも撮り方も独創的で、さすがと思わずにいられない。写実を抽象に転換させる「過程」を実際に感じてみたいと思った。そのためには、岡本太郎美術館で本物をこの目で見てみなければ。ゴールデンウィークに行ってみようかな。
 田村隆一「スコッチと銭湯」。酒を素材にした現代詩とエッセイだ。田村氏にとっては書きやすい題材なのかしら。今日読んだ部分では、ワインにも言及していた。酔っぱらい文学だな。
 「重力と虹」。夢のなかで<早駆け>の亡霊と出会うスロースロップ。続いて、ご先祖ウィリアム・スロースロップの登場。ウィリアムの体験のくだりでこの作品のテーマなのではないか、という一節を見つける。愛すべき<見捨てられた者>。対比物。キリスト教的世界観。このあたりに、この作品を読み解くためのヒントが隠れているような気がする。…なんて書くと、すでに読んでいる人からなんやかやとメールが来そうだな。


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April 13, 2002
「熟睡の充実感/理事満了/二度と出せない味/集中力」


 十時三十分起床。熟睡の充実感。疲れもとれ、胃の痛みも軽くなり気分は軽やかだ。
 朝食(というよりはブランチだな)後、麦次郎が玄関でナンナンと鳴きわめいている。外に出せ、といっているらしい。ヤツは外に出すと突然意味もなく疾走したり階段を駆け上がったりする。用心のため首輪にリードをつけてから出してやろうとすると、今度は「やっぱりいいよ」といわんばかりに玄関に背を向け、覇気なくその場から去ろうとする。なんでやねん、とぼくが外に引っぱり出そうとすると、今度はするりと僕の手から放れ、ベッドの下に隠れてしまう。どうやらリードがトラウマになっているらしいのだが、ぼくにはまるで心当たりがない。カミサンがリードをつけても別に普段と変わりないというのだから、やはり原因はぼくにある。うーむ、わからん。たんに嫌われているだけなのかな。
 午後より事務所へ。残務整理、ヤフーオークションの出品など。「格闘技別肉体鍛錬バイブル」なんてのも売りに出してみた。仕事の資料として一度目を通したきり。うちの事務所にはこんな本が山ほどある。
 十七時よりマンション自治組合の総会。理事満了。これでやっと毎朝やっていたカラスよけのゴミネット出しという「苦行」から解放される。うちのマンションでは、理事の仕事といえばこればっかりなのだ。
 気が向いたので久々に自分で夕食を作る。メニューはビーフカレー。カレー用の有機飼料飼育国産牛をスーパー「富士ガーデン」で購入。これをすぐに圧力鍋のなかに放り込み、飲み残しの赤ワインをどぼどぼとそそぎ込んでしっかり煮込む。玉ねぎはペタペタになるまで炒め、ショウガとニンニクのすり下ろしを加える。牛肉を煮込んだ鍋に茶色くなった玉ねぎと別のフライパンで炒めておいた人参をぶち込み、さらに煮込むこと二十分。いい感じ。チャツネ、ジャガイモを加える。さらに十分。仕上げにカルディコーヒーファームのカレールーと自慢の即席オリジナルスパイミックス、そして低温殺菌無調整牛乳を加えて、はい出来上がり。味は満足。香りも味も上々だ。カレーはコクと香りだ。問題なのは、二度と同じ味が出せないこと。いつも味が変わっちゃうんだよなあ。
 二十二時、テレビ東京の「美の巨人たち」を見る。今日は江戸末期から明治初期にかけて活躍した日本画家、河鍋暁斎の「枯木寒鴉図」。画風の幅広さ、鋭い観察力、そして何よりも絵が好きで好きでたまらないというココロ。暁斎は暇さえあれば絵を描いていたらしい。すべての根底にあるのは美への執着心ととんでもないレベルの集中力なのだろう。緊張の高まりを一気に表現の力に転換し爆発させるのだ。きっと。「枯木寒鴉図」は、わずか十分で仕上げてしまった作品だという。創造の質は制作時間に左右されないんだなあと痛感する。ジャズやプログレッシブ・ロックのインプロビゼーションなんかに似ているかな。
 「重力の虹」。<支部>で踊る<海賊>プレンティスとカティエ。ぼくが読んだ本のなかで、もっとも楽しくないダンス。の描写。


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April 12, 2002
「モロヘイヤのちから/にっちゃらにっちゃら/意図的な青臭さ」


 八時三十分起床。胃痛は幾分収まっているが、まだ不調。軽く朝食を済ませてから事務所へ。途中「野菜倶楽部」に寄り、モロヘイヤジュースを購入。事務所に着いてから早速飲む。と、おやおや、胃痛が和らぐじゃないか。おそるべし、モロヘイヤパワー。
 だいぶよくなってはいるのだが、念には念をということで、午後から病院へ。胃潰瘍だったらどうしようかと思ったが、おそらくはただの胃炎とのこと。薬をもらい、様子を見ることに。ふう。
 安心したらおなかが空いたので、近所の「砂場」でもりそばをたぐる。いや、たぐるというより、にっちゃらにっちゃらと食べたという感じ。胃に負担をかけないようにするため、時間をかけてじっくり噛んでから飲み込んだのだ。ぜんぜん粋じゃないな。まあ、仕方がない。
 中上健次「黄金比の朝」。青臭い、青臭い。意図的に青臭さを出しているのだとしたら、やはり中上氏は天才だ。


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April 11, 2002
「今日もひとことだけ」


 猛烈な胃痛におそわれる。明日病院に行こうと思う。

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April 10, 2002
「今日もひとことだけ」


 平穏なのに、焦る。
 平穏ではない、ということか。
 結局徹夜なんだよなあ。


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April 9, 2002
「ひとことだけ」


 脳味噌のなかに隙間がまったくない。そんな気がする一日だった。



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April 8, 2002
「箇条書きです」


●「日経ビジネス アソシエ」のキャッチフレーズは日本語からして変だ。
●エレガントなゴルチェ。
●忠犬ハチ公まつりというのがあるらしい。
●胃袋がふるえて喜ぶカレー。
●もう夏服。
●働き過ぎはココロに毒だ。



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April 7, 2002
「早咲きが狂わす/なんちゃってチャクラ/虚無感」


 五時三十分、花子にご飯をせがまれたため起床。缶詰を与えてからもう一度ベッドへ。七時、鳥たちが大騒ぎし始めたので起床。鳥かごにかけておいた風呂敷をとってあげてから再びベッドへ。九時、花子に理由もなく起こされ起床。トイレに行ってから三たびベッドへ。十時、今度はちゃんと起床。
 午後よりフィットネスジムへ。行く道すがら、八重桜がやたらと目に付いた。桜も咲くのが早かったが、八重桜も早いようだ。それだけではない。ボタン、ツツジ、フジ、アヤメまで咲いている。早咲きの花は季節の感覚を惑わせる。
 十五時よりジムにてヨガ。最後になんちゃってチャクラのようなことをやらされたのだが、気持ちよくなり寝てしまった。白いご飯の夢を見た。
 十八時、「料理バンザイ」の後番組、「隠れ家ごはん」を見る。初回ゲストは小泉純一郎。羽目を外して飲み、喰い、料理を賛辞し、飲み、饒舌に語るコイズミさんに少しだけ親近感のようなものを抱く。
 十八時三十分、「サイボーグ009」ミュートス編。たは、やはりラストがもの悲しさはあるもののテレビ的。原作のような、やりきれないほどの虚無感がない。石ノ森が描いた009たちとギリシアの神々との戦いは、無意味だというのに壮絶で、最後は悲しみも希望もなく、ただ虚しさだけが残っていた。
 田村隆一「スコッチと銭湯」。また酒に関する名文を見つけてしまった。酔っぱらい文学の金字塔、だな。
 「重力の虹」。じつはちょっとわけがわからなくなってきている。おもしろさは感じているのだが。

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April 6, 2002
「地底人よ、どこへ行く/残務を越えた残務/ウンコくせえ/嘘くせえ/ヒデヨシらしいヒデヨシ」


 九時起床。お楽しみの「建もの探訪」もそこそこに身支度し、「ののちゃん」を見ながら朝食。地底人の行く末が気になる。
 十時三十分、事務所へ。昨日やり残してしまった仕事を片づける。で、終わったのが十八時。やり残すとかいうレベルを超えているな、こりゃ。
 二十時、帰宅。猫のトイレの始末をしていたら、突然麦次郎が現れ作業するぼくなどお構いなしにトイレに入り込みウンコをはじめた。こいつ、絶対にわざとだ。意図的犯行。黒くて艶やかなウンコが三発。臭い。はあ。おまけにウンコした場所が悪かったのか、砂をウンコの上に上手にかけることができなくて困っている。仕方ないのでスコップでウンコに砂をかけてあげたら、気まずそうな顔をしながらトイレから出ていった。ったく、こんなことも一人で満足にできないとは。情けない猫だ。
 夕食はダッカルビ。この季節のテレビ番組は企画倒れの特番ばかりで飽きてしまう。先日放送された「TVタックル」の超能力特集をビデオで見る。今回はいまいちかな。超常現象は信じているのだが、この番組で紹介するものはみんなインチキに見えてしまう。嘘くせえ。大槻教授と韮沢氏の影響力なんだと思う。続いて「ココリコ黄金伝説」。深夜番組時代の体を張った伝説の特集に爆笑。ああ、今夜は完全にリラックスモードだな。
 「アタゴオル物語」四巻。ヒデヨシがやっとヒデヨシらしくなってきた。


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April 5, 2002
「非効率/なんなんだ?/うんこちんちんへの回帰」


 「特ダネ」でイスラエル、パレスチナの情勢レポートを見る。民族の確執。----見続けるのがつらくなる。溜め息が出るばかりだ。
 今日もまた慌ただしい一日。作業に没頭していると電話が鳴る。別の物件の対応を急かされるため、進めていたことを一度止めなければならない。この繰り返し、とんでもなく非効率だ。なんとかせねば。
 「重力の虹」。テキストが迷走している、というよりも、把握しきれないほどの数の登場人物たちがみな迷走しはじめている、という感じ。主人公スロースロップの存在感がやや希薄になってきたが、その分だけ「なぜ、なんのために登場してきたんだコイツ」というような人物がスロースロップのように何かを求めてゾーンを彷徨っている。なんなんだ、この物語は。
 「週刊モーニング」。「えの素」が絶好調。連載当初の異様なハイテンションが全編をしめる低レベルなうんこちんちん系下ネタ路線に回帰しつつある。うれしいことだ。
 夕刊で高橋源一郎の「官能小説家」が絶賛されていた。「日本文学盛衰史」といい、明治文学を題材にした作品の評価が異様に高い。ぼくは「優雅で感傷的な日本野球」以来、高橋文学のファンなのだが、「あ・だ・る・と」から彼の作品はまったく読んでいない。なぜ読みたくなくなったのかはわからないのだが、「日本文学〜」は読んでみたいと思っている。


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April 4, 2002
「情けない夢/安すぎる居酒屋」


 毎朝六時頃に花子に一度起こされる。朝御飯を催促しているのだ。仕方ないので布団から抜け出し缶詰を開けて器に盛ってやる。そのときついでに外に出て、マンションの外廊下にしまってあるゴミ置き場のカラスよけネットを出すのが日課になっているのだが、木枯らし吹きすさぶ冬に逆戻りしたかのような冷たい突風が吹き荒れていたので驚いてしまう。が、その驚きも眠気には勝てず。二度寝。これまた日課になっている。当然のことだが。
 もう一度目をさまさなければいけない八時までの間に夢を見た。なんとまあ、ぼくがプッチモ二のメンバーにさせられてしまった。男なのに。いい歳して最近はモー娘。の夢ばかり見ているような気がする。情けない。
 日中は事務所にこもってひたすら仕事。やってもやってもゴールが見えない物件ばかり。ストレス溜まるなあ。
 夕方、「森の泉治療院」にて鍼治療。三週間ぶりだ。整体師見習いのKさんから、地元西荻の激安居酒屋情報を仕入れる。生ビール一杯190円、お刺身1皿300円…。ここまで安いと逆に警戒してしまう。ぼくは性格が悪いのだろうか。
 ヤフオク、何品かが無事落札された。よかったよかった。


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April 3, 2002
「『日輪の翼』、その美しいラストシーン」


 八時三十分、インコたちの景気のいい鳴き声で目が覚める。四捨五入すると夏、という天気。トリもご機嫌になるわけだ。
 午前中はZのコピーなど。電話がほとんどならなかったせいか、集中して作業できた。と喜んでいるのもつかの間、十二時頃から電話が鳴り続けることに。ぼくも焦るが、クライアントも焦っているようだ。慌ただしいと気持ちが委縮する。天気の良さを素直に喜べるだけの余裕がなくなる。が、十五時頃になんとか収束。
 夕方、I社にて打ち合わせ。二十時三十分、帰社。しばらく午前様が続いているので、今日は早々に引き上げることに。気持ちは少し晴れやかになりかかっているが、脳味噌がいっぱいいっぱいになっているのだ。一度リセットしないと。
 中上健次「日輪の翼」完読。肉欲と信仰心、聖と俗との対比が印象的だったが、読み進めるにつれてこれらは源を同じにするものなのではないか、と感じた。愛欲にまみれながら生きるツヨシの姿は、見方を変えれば聖である。彼は信仰心をもたないが、でも信仰の必要性を理解している。そしてラストシーン。姿を消した老婆たちに思いを馳せながら旅を続けようとするツヨシの姿は、二十代の若者を描く物語としてはもっとも美しい終わり方なのではないだろうか。


 ツヨシは丸五日間、冷凍トレーラーに乗って、老婆をさがしながら、東京のどこもかしこもサンノオバやコサノオバ、マツノオバらが一かたまりになって歩いていても不思議ではない気がし、何度も、「オバらか?」と他の老婆と見間違い、胸つかれる思いを重ね、そのうち、サンノオバらが失踪したのをそう心配することでもないと思い直した。東京はどこでも生きられる。いや、東京が、日がな一日、信心のことを考えている老婆らを必要とする、ツヨシは、そう考え、冷凍トレーラーでさがすのをあきらめ、老婆がいなければ冷凍トレーラーも意味もないから手放そうと思い、最初に止めた場所に停車したまま、老婆らが帰ってきても住めるように荷台の扉のロックを閉めず、はしご台を取りつけたままにした。老婆らが帰ってくるはずがないのは分かっていた。
 停車している冷凍トレーラーは車体が大きすぎて、低い気圧に押し込められて身の苦しさにあえいでいるようだった。ふと顔を上げ、冷凍トレーラーの扉が、退化した翼のように揺れ、軋む音を立て、語りかけてくる気がして、ツヨシは運転台を見る。ツヨシは胸がつまった。ビルとビルの間を通ってくる風の音が耳についた。
 「アニ、後の扉、閉めてくる」と言って、後ろに廻り、さっき開けた荷台の扉を閉め、ツヨシは運転台に飛び乗り、まだ旅は終わっていないのだと思い、ビルの屋上から次々と老婆らが荷台の後の音もなしに舞い降りてくる気がしながらエンジンをかける。
「アニ、乗らんかい? これからまた、俺ら旅じゃ」ツヨシが声をかけると田中さんは躊躇し、一人で行けと手を降りかかり、ツヨシが日を受けたビルディングにクラクションを鳴らすのを見て不意に決心したように、「行くか」と飛び乗った。
 

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April 2, 2002
「箇条書きですみません」


●脳味噌がマルチタスク。
●今年の夏は気が早い。
●大戸屋二連チャン。味、濃いよ。
●さよならあちゃら。


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April 1, 2002
「嘘」


 嘘つきの日。
 八時起床。「特ダネ」を見ながら朝食。細かい部分でリニューアルしている。ちょっと演出過剰だが、小倉にはこのくらいがちょうどいいと思う。とくに嘘は出てこなかった。
 午前中は事務処理やFの企画など。Sの赤字がファクスされてきたが、嘘ではないようなのできちんと対応する。
 「野菜倶楽部」の弁当モロヘイヤジュース付きで昼食。チンゲンサイとチキンのハーブ焼と書いてあった。チンゲンサイとハーブというのはどうだろう、嘘なのかなと思ったが嘘ではなく、美味だった。意外。
 午後からはZの仕事に没頭。企画に嘘を盛り込もうと思ったが、信用問題に関わるのでやめておくことに。十六時、外出。十七時よりI社にて打ち合わせ。約束が嘘だったらどうしようかと思ったが、I社のみなさんが正直者なので騙されずに済んだ。
 帰りの電車のなかでもくもくと本を読んでいたら、どの駅に停車中なのかがわからなくなる。社内アナウンスは嘘である可能性があるため、自分の目で確認しようと思いキョロキョロしていると、隣に座ってぼく同様もくもくと携帯電話でメールを書いていた女性が急に携帯を懐に隠し「何よあたしのメール読まないで」とでもいいたそうな表情でぼくをギロリと睨んできた。別に見てないってば。きっと彼女は誰かを騙そうと思い嘘に塗り固められたメールを書いていたので、後ろめたかったのだと思う。
 二十一時十五分、帰社。Fの残務などを済ませ、二十二時五十分、カミサンと事務所を出る。食事がまだだったのだが、もう居酒屋くらいしか営業していない時間。「大戸屋」ならまだやっていると思い入店する。半年ぶりに食したが、ここのメニューはみな味が濃いと思った。以前はそんなこと感じなかったのにな。まだ胸焼けがする。嘘の味付けなのかとも思ったが、まあ二十代の利用が多い店だ。こんなものなのだろう。
 「日輪の翼」。「恐山」の章の難解さに悩んでしまう。この章の捉え方次第で、この小説の価値は大きく変わるはずだ。
 「ビッグコミックスピリッツ」。もうだめだ。おっぱいとちんこばっかし。どんどん下世話な雑誌になっていく。おっぱいもちんこも嫌いじゃないが、スピリッツには不要な要素だと思うのだが。「美味しんぼ」もだめだ。不謹慎と思われるかもしれないが、物語の完成度を高めるためには、あのガン患者は豚肉を食った後に死ぬべきだった。食を通じて人を救えなかった山岡の嘆きがみたかったなあ。----ハッピーエンドは物語にとって「死」である。新しいものを何も生み出さない。



《Profile》
五十畑 裕詞 Yushi Isohata
コピーライター。有限会社スタジオ・キャットキック代表取締役社長。妻は本サイトでおなじみのイラストレーター・梶原美穂。モー娘。ネタが日記でチラホラしているが、実はひいきにしているわけではない。本人いわく「モー娘。ネタのほうから勝手にオレに寄ってくるのだ」…自意識過剰。

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