「蹴猫的日常」編
文・五十畑 裕詞

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Mar.22, 2002
「日課なんですよ、じつは/モノポリーは150円にしておいた/リフィルのヒミツ/地味だけどうまい店/相変わらずだけどおもしろい本/暴れる猿」


 いつもどおり八時起床。日課の体操(笑うな!)を済ませてから事務所へ。
 昨日でほとんどの仕事が一段落、今日は小康状態だ。溜まっていた事務処理をぱきぱきと済ませる。かわいそうなのはカミサンだ。ぼくがお願いしたイラストの仕事が山ほどある。週末はこれをこなすだけで終わってしまいそうだ。
 ちょっと時間があいたので、不要品をヤフーオークションに出品する。使っていないルータ、システム手帳のバインダ、リフィル、そして仕事の資料として買った未使用のモノポリー。全部売れるといいのだが。
 夕方より、一度手離れした仕事のチェックやレスポンス対応に追われはじめる。バタバタした感じだが、いつもほどの忙しさではない。
 チェックの合間を利用して、手帳用の自作リフィルのカット作業。以前は1ヶ月見開き用、1日見開き用、アイデアメモ用、ふつうの罫入りノート、住所録---のすべてを自分でデザインし、大量にプリントアウトしてさらにそれにカッターを入れ、パンチで穴をあけて使っていたのだが、あまりに大変すぎて根をあげてしまった。今はなんと、これらを1ヶ月リフィル、汎用のリフィル、まっしろなリフィル---の3種類だけで間に合わせてしまっている。そうすることができるような使い方を編み出した、ということだ。リフィルの種類が減った分、作業はかなり楽になった。どんなリフィルを汎用にしているか---ソレハナイショ。
 夕食は「桂花飯店」へ。焼獅子頭という、豚挽肉と豆腐でつくられた中国ハンバーグを食す。ふわっとした触感とピリリとした辛さが絶妙。不思議な快感が味わえる料理だ。このお店、地味で目立たないのだが意外にうまく、よそで食べたことのないメニューも多いのでついつい通ってしまう。おすすめだ。
 ますむら・ひろし「アタゴオルは猫の森」3巻を読みはじめる。いやはや、相変わらずの世界観。「美味しんぼ」の相変わらずさはマンネリズムで頭にくるが、「アタゴオル」の相変わらずさはうれしくて心地よい。なぜだろう。
 「重力の虹」。ウォッカを飲んで暴れる猿。そんなこと、ほんとにあるのだろうか。

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Mar.21, 2002
「こらえてこらえて/グルメ評論家おすすめのカツ丼を食す/おいしそうに食べるということ/真似できないや」


 ゆっくり寝たかったところをこらえてこらえてこらえてこらえて八時三十分起床。今日もお仕事だ。K社のパンフレットの原稿に専念する。休日は電話がかかってこないので集中できるのだ。はかどること、はかどること。ときどき手がとまってしまうのだが、これはぼくが悪いのではない。突然エラーが出るMacが悪いのだ。
 昼食はかの山本益博氏が絶賛していた「坂本屋」という定食屋のカツ丼にする。中華とどんぶり、そして定食というラインナップの、いわゆる食堂だ。店には「揚げたてのカツ丼の、うまいことうまいこと」と書かれた山本氏の色紙が飾ってある。期待大かな、と思って待つこと十分。目の前に運ばれた、湯気の上るカツ丼をひとくちパクリ。ふたくちパクリ。うーん、たしかにカツは揚げたてでさくっとした歯ごたえが快感なのだが…それだけ。絶賛するようなもんじゃないなあ。化学調味料の味がするし。そのせいなのだろうか、平坦な感じなのだ。カウンター越しに厨房に目をやると、でっかいハイミーの缶が置いてある。ああ、あれか。だし汁にあれをどさっと入れてたんだな。ふーん。
 「ダカーポ」購入。恒例の文章上達講座。今回はあまりにもピンポイントな各論が目立つ。それから「ブルータス」。春のファッション特集だ。なかはまだ見ていない。
 十七時にはすべての原稿を書き終えた。サムネイルも書いた。ばっちりだ。デザイナーにメールとファクスで原稿を送って、本日の業務終了。カミサンがまだ仕事をしていたので、新聞の切り抜きや雑誌の整理をしながら待つ。十九時、退社。
 テレビ東京の「TVチャンピオン」。大食い選手権だ。とんでもない分量のカレーやらうどんやらを、笑顔でおいしそうに食べる二十一歳の女性と、体重四十キロの小柄な二十三歳女性の対決。すっげえ。ふたりとも、食べることを楽しみながら競技に参加している。勝負にこだわっていないのだ。見ていて気持ちがいい。食は誰もが避けては通れない生きるための手続き、義務のようなものだ。義務だからこそ、楽しみたい。それを彼女たちは自然な形で実践している。素晴らしいことだ。
 「恋ノチカラ」最終回を見る。貫井功太郎くん、塔子ちゃんとラブラブになれてよかったねー。恋のリアリティはあったけど、広告業界のリアリティはちょっと、って感じだったな。でも、おもしろかった。
 「重力の虹」。ピンチョンの表現力に圧倒されっぱなしだ。一瞬考えさせ、後から納得させるような描写が多い。意図的にやっているのだろうな。ちょっと真似できないや。


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Mar.20, 2002
「書くことがほとんどないです」

 夜中、花子に何度も起こされる。なぜかと思ったら「ウンコ出た」ということだったらしい。便秘がちなので、ウンコがうれしいらしい。見せたかったのだろう。
 最近は外出せずに事務所で原稿を書いてばかり。移動することがないので読書できない。そのかわり、一日十枚のペースで原稿を書いている。ちょっとしんどい。
 夕食は「西荻食堂Yanagi」にて。真鯛のこぶ締め定食。カミサンはアジのたたき定食。
 ふう。今日は仕事ばっかりだったからなぁんにも書くことがないや。


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Mar.19, 2002
「今日は現代詩風で」


 眠い。
 はかどらない。
 イライラする。
 周りばかりが素早く動く。
 ついていけない。
 進まない。
 筆が進まない。
 進まない。
 
 でも、気付いたら終わってた。
 今日ははやく寝よう。


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Mar.18, 2002
「能率ばっちり、なはずだけど/頭脳明晰/マガジン・アイデンティティの危機/ジョンとポールとデヴィッドとミック」


 ただいま午前二時十五分。今日も徹夜だ。能率が悪いわけではない。忙しいのだ。
 天王洲にあるC社の取材。担当ディレクターのM氏、もぞもぞとしゃべるが頭脳明晰。今までインタビューした中で一番論理的だった。
 帰社後はもくもくと作業。M社のパンフレット、N社のリーフレットなど。今週も原稿用紙100枚コースかな。今月、花見にはいけなそうだな。残念。
 「週刊ビッグコミックスピリッツ」。これはヤンマガ化? ヤンジャン化? 雑誌としてのアイデンティティを見失っているぞ。小野愛ちゃんのグラビアは悪くないが。
 夕食は「ひごもんず」。いつも店内に流れているビートルズのナンバーを聴きながら、ふとビートルズとジャパンは似ているのではないか、と思う。ジョンとポールの関係を思い切りねじくれさせると、デヴィッドとミックの関係になるのではないか。バンドがたどった道はまったく異なるようだが、ライブという表現にたいする一種のあきらめは、どこか共通しているように感じる。よくわからないが。なんせビートルズにはほとんど思い入れがないのだ。


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Mar.17, 2002
「起きてよ攻撃/計ってみたい/見つからない/女装と剃り込み/最終編はどうなる」


 花子のおよそ一時間におよぶ執拗な起きてよ攻撃に根をあげ、九時起床。今週もテレビ東京の「ハロモニ」を見ようかと思うが、ちょっと自分が情けないように思えたのでチャンネルはフジの「笑っていいとも増刊号」に合わせておくことに。最近、モー娘。が頭の中で占める割合が増えているような気がするのだ。といっても、3パーセントが5パーセントに増えたくらいだと思うのだが。計ってみたい、と思う。
 午後より新宿へ。マイシティ地下のスタンドコーヒーでカレーなど。カミサンはホットドッグ。ここは狭くて落ち着かないのだが、味はすばらしいのでちょくちょく利用している。伊勢丹のバーゲンでイッセイ・ミヤケのシャツなど。カミサンはカットソーを狙っているのだが、心に響くものが見つからないようだ。何も買わなかった。
 続いて吉祥寺へ。ロンロンで妙に背が高く肌が荒れていて男性用のメタルフレームの眼鏡をかけた女性がソワソワしているのを見かける。ありゃ、絶対に服装倒錯者だな。いわゆる女装趣味。どこから見てもオトコだ。
 パルコでカミサン、アンテルリネエール、ワイズなどをのぞくが、ここでもいまひとつということで何も買わず。地下のパルコブックセンターへ。雁屋哲・花咲アキラ「美味しんぼ」80巻、81巻、ますむら・ひろし「アタゴオルは猫の森」「ギルドマ」、山田風太郎・石川賢「柳生十兵衛死す」3巻、水木しげる「妖怪画談」を購入。ははは、全部マンガだ---厳密に言うと「妖怪画談」はマンガではないが。
 帰り際、西荻駅で額に10センチくらいの気合いの入った剃り込みを入れた人を見かける。リーゼント、派手な刺繍の入ったスウェット上下、茶色いレンズのティアドロップ型サングラス。…文化遺産だな、と思った。
 十八時三十分より「サイボーグ009」見る。ミュートス編、かなりの力の入れようだ。原作の「ギリシア編(ミュートスサイボーグ編)」よりも「神」へのこだわりが強い。どちらかというと未完の「天使編」や「神々との戦い編」に近い。ということは、これらの作品がアニメ化される可能性は低い、ということだな。そういえば、晩年に石ノ森先生が小説の形で仕上げたという009の最終編はその後どうなっているのだろうか。出版予定はあるのだろうか。
 「重力の虹」。<跳ね駒>フォン・ゲルにようやく出会えたスロースロップ。<ゾーン>での物語はいよいよ佳境を迎えるようだ。

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Mar.16, 2002
「住めない家/やってもやっても/変なゲロの吐き方/がんばれ保田(三回目か?)/ぱったぱったと粉になる前に」


 九時三十分起床。寝ぼけマナコのまま「建もの探訪」。今日の家、わずか十坪の土地を有効活用したという点は評価できるが、デザインが珍妙すぎた。人の住む空間じゃないな、ありゃ。
 十一時より事務所へ。掃除や植物の世話を終わらせてから、黙々と仕事をこなす。ふう。やってもやっても終わらない。
 夕食は西荻窪の「ごっつお屋」で。ハタハタと野菜のサラダ、鶏の網焼き、軟骨入りイカの塩辛、豚バラの大根煮、梅おじやのコロッケなど。
 夜、風呂に入っていたら花子がゲロばらまき事件を起こす。ゲロの吐き方が変だったせいだろうか、ちょっとパニックを起こしているようで甘えたり機嫌を悪くしたりをさっきから繰り返している。
 「サイゾー」四月号が届く。定期購読をしているのだ。トピックスの一発目が保田圭の写真集、ちょっとびっくりしてしまう。そういえば、サイゾーは保田を応援しているんだったっけ。がんばれ保田。おまえの味方はけっこう多いぞ。
 「働きづくめで白くなる。ぱったぱったと粉になる」と唄ったのはゼルダの高橋佐代子ちゃんだが(Ash-Lar)、ぼくも粉になってしまいそうだ。というわけで、明日は完全休業にしようと思う。


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Mar.15, 2002
「長文ばっかし、でも合ってる/イタリアンな隠れ家」


 八時十五分起床。雨上がりの空気がなまぬるい朝だ。
 ひたすら原稿に集中する。今週はおそらく原稿用紙換算で100枚くらい書いているはずだ。長文の多いコピーライター。珍しいのだろうか。珍しくプランニングの仕事が一本もない状態。ライティングの方が性に合っているとつくづく思う。
 夜は早々に仕事を切り上げ(といってもすでに二十時を回っていたのだが)、ケイゾーとカミサン、そしてぼくの三人で西荻の隠れた名イタリア料理店「トラットリア・ダ・キヨ」へ。金曜日だというのに客はぼくたちだけ。隠れ家っぽくていい感じだが、経営は大丈夫かとついついよけいな心配をしてしまう。タコマリネ、アボカドサラダ、マルゲリータ、トマトとアンチョビのスパ、ワタリガニのスパ、豚の頬肉のピリカラソテーなど。デキャンタで頼んだワインをほとんど一人で開けてしまったせいか、睡魔におそわれ体と脳みそがだるくなる。ケイゾーの職場の人間関係話を聞く。うわ、一昔前の少女マンガみたいだ。
 今日は仕事の資料と新聞、雑誌以外はまったく本を読まなかった。たまにはこんな日もあるもんだ。

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Mar.14, 2002
「ふつう型」

 徹夜明けは脳みそが濁った感じがする。クリエイターは夜型が多いとよく言われるが、ぼくはそうではない。いたって普通なのだ。夜は眠くなる。朝は目が覚める。
 忙しい状況はほとんど変わらず。新規の原稿と赤字の対応を交互にこなすような状態が一日中続く。電話は鳴りっぱなし。ファックスもひっきりなしに送られてくる。過酷。
 息抜きのため、昼食はお気に入りの「それいゆ」へ。入り口でどでかくて毛のふっさりした雑種犬とちんまりした顔つきの柴犬がかしこげにお座りしてひなたぼっこしていた。どうやらなかで食事をしているご主人様を待っているらしい。鉄骨パスタ。食後は水出しコーヒーと「日輪の翼」。
 「週刊モーニング」。買ったが、まだほとんど読んでいないから何も書けないな。


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Mar.13, 2002
「今日も箇条書き」


●平穏な午前中。
●激動の午後。
●帰れない夜。
●新聞配達とすれ違う。
●午前四時三十分。花子だけは起きていた。
●白む夜空を肴にビール。
●午前五時三十分、就寝。


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Mar.12, 2002
「多忙なときの常套手段。箇条書き日記で、どうだ!」


●夜中に突然布団をたたき、寝たまま踊り、にやりと笑ったカミサン。要するに、寝ぼけていた。
●早起きはストレスの元である。
●一日にインタビュー二件はちときつい。
●インタビュー相手の外人は、三年前にプレゼンしたことのあるデヴィッドだった。
●デヴィッドはイギリス人だが、デヴィッド・シルヴィアンではない。
●徹夜はワーカー・ホリックの元である。
●花子よ、いきなりゲロを吐くな。二度も。
●「日輪の翼」。蛇の暗喩。


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Mar.11, 2002
「多忙と体調」


 宿酔い気味。情けない。
 恐ろしかった超多忙の一週間がはじまった。スケジュール調整がうまく行かなかったため、キャパオーバーになっているのだ。今週は徹夜が2回くらいありそう。体調がよくないこともあってか、ちょいと気が沈む。首も沈んでいるのだろうか。痛い。癖になっているのかな。
 午前中はM社の件で表参道にある某レコード会社の取材。女性の担当者が浅草サンバカーニバルに命を懸けていた友人・おいちょす二十八歳(もちろん女性)にそっくりだった。あの顔はそうそういないと思っていたんだけどな。取材の方は成功。原稿を書くのがちょっとしんどそうだが、なんとかなるだろう。
 午後より代官山へ。I社にてFの打ち合わせ。帰社後は電話、メール、ファクスのラッシュ。ストレスに胸がつぶされそうになるが、なんとか乗り越えた。
 「週刊ビッグコミックスピリッツ」。つまらん。
 「重力の虹」を3ページだけ。マルゲリータとS装置、そしてイミポレックス。いつになったら読み終わるのだろうか。ふう。


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Mar.10, 2002
「モーニング娘。お楽しみ会風/故郷の銘酒/がんばれ保田、おまえはかわいい/飲酒の正当性」


十時三十分、今日もまた花子に起こされる。洗顔などを済ませてテレビをつけたら、テレビ東京でモーニング娘。のバラエティ番組がやっていた。「ハロモニ」というらしい。何も予備知識のないままに見ていたのだが、メンバーの学芸会的というかクラスのお楽しみ会的というか、素人っぽさ全開の演技に脳みそがくらくらした。お目覚めに最適ですわ。…いかん、今日もモー娘。ネタからはじめてしまった。
 午後よりフィットネスクラブへ。今週もヨガに参加。体の芯にたまった疲れがとれていくような感じ。
 続いて本屋へ。「ダカーポ」購入。「ふるさとが元気だ!」というコーナーにぼくの故郷・茨城県古河市の地酒「御慶事」が紹介されているので驚く。全国新酒品評会で金賞を受賞したらしい。地元ゆえに小馬鹿にしていたのだが、まさかこんな身近に銘酒があったとは。…しかし、日本酒品評会では「酒の味の淡きこと、水の如しをよしとする」なんてどこかの評論家が言ってからは端麗辛口ばかりが受賞しているらしいからなあ。ぼくはしっかりした味と作りの日本酒の方が好きだ。金沢の「天狗舞」とかね。同じ茨城で「武勇」という地酒があって一度だけ飲んだことがあるのだが、これもぼくの好みだった。
 同じ本屋でモー娘。の保田圭の写真集を見かける。表紙だけ見たが、カメラマンの腕に圧巻。保田のミリョクが200%表現できていると思う。がんばれ保田。おまえはかわいい。なっちほどじゃないが。
 十八時三十分、「サイボーグ009」を見る。アニメオリジナルのエピソードだな。来週からはh「ミュートス編」がはじまるらしい。おそらくミュートスサイボーグ=ギリシア編だと思う。原作はもっとも壮絶で無益で虚しい戦いが繰り広げられた悲しい戦記の記録だっただけに、どう表現されるかが楽しみだ。
 田村隆一(←ATOKめ、偉大な詩人の名前を一発で変換できないとは! 情けない)「スコッチと銭湯」を読み始める。フィットネスクラブでエアロバイクをしているときに読むことにしたのだ。酔っぱらい文人墨客的詩作とエッセイ、といったところかな。ぼくもスコッチは好きなので(じつは今日もバランタインをを飲みながら書いている。昨日はジョニー・ウォーカーだった)、夢中になって読んでしまった。作中で作者が紹介したイーニアス・マクドナルドの「ウィスキー」という作品の引用が名文だったので、引用の引用としゃれ込みたい。
「酔いは、思索をゆたかにし、明晰を生むにいたる。歌だってうたいたくなるかもしれないが、それと同じくらい、議論がしたくなる。毛ほどの相違も気にかかり、無用な区別だてをしたがる気持ちが、酔いの心底にあるのだ。敵など眼中にない、誇大した直観力の威力のまえに、ヒエラルキーとオーソリティは崩壊するのだ。酒こそ、破壊的批評の母乳、偉大なる抽象の生みの親である。それは演繹法のチャンピオンであり、ブラグマチズムにとって、不倶戴天の仇敵なのだ。ソクラテス派の哲学のごとく、論理的既決を目指して突進し、既成の、いかにも有用そうな虚偽を憎悪し、筋ちがいなものに唾をはきかける。そして、人生の錯雑と逡巡をきっぱりと秩序づける鋭いヴィジョンをもち、灰色の世界を断固として白と黒に分割するのだ」
 以上、田村隆一本人の訳。文人や芸術家の多くがこよなく酒を愛する理由をほぼ完璧に述べきった名文だ。これでぼくも自信をもって酒をスコッチを飲むことができる。ははは。

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Mar.9, 2002
「なっちと保田/猫になった渡辺篤史/まろやかでふっくら/手帖のメンテナンス」

 いい歳して情けないのだが、モーニング娘。の夢を見た。メンバー全員が学校のようなところで合宿をしている。そこに三十男のぼくが乱入するわけだ。ゴマキが冷たい視線をあびせる。新人たちは素っ頓狂な表情でぼくをみつめる。なんら変わりない、どちらかというと無表情、というような顔つきでぼくを一瞥するかおりん、矢口。見せ物でも見ているかのように興味深くぼくを覗き込む保田。ところがなっちだけはテレビと同じまるっちくってかわいい顔のままで、優しくぼくに話しかけてくれた…。
 こんな夢を見たのは、きっと某雑誌で「保田圭セクシーショット」という広告を新聞で見つけたからだろう。がんばれ保田。きみには歌唱力という武器がある。ちなみに、なっちだけが優しかったのは、ぼくがなっちのファンだからであろう。夢は深層心理を映し出す鏡。ははは。 
 てな夢を見ていたら、花子に起こされた。九時十五分也。
 ストレッチしながら「渡辺篤史の建もの探訪」を見る。犬と猫のいる二世帯住宅。渡辺篤史、床暖房の誘惑に負けてだらりと寝そべる猫を見つけると、猫にぴったりくっつくように寄り添い、寝そべり猫の気持ちで床暖房の心地よさを確認している。建物の評価の仕方が、ワンパターンなのか意外の連続なのかがよくわからん。不思議な番組。ついつい見ちゃうな。
 午後より吉祥寺へ。伊勢丹にて、まもなくやってくる母親の誕生日のプレゼントを購入。アンサンブルにした。気に入ってもらえるだろうか。ほか、葉々屋で紅茶、カルディでカレー粉、パルコブックセンターでDreamweaverの教本、Franc francで茶こしなど。十五時より事務所へ。買ったばかりの葉々屋の紅茶「ディンブラの十五番」を飲む。スリランカティー(別名セイロンティー)なのだが、まろやかでふっくらした感じ。気に入った。仕事の友になりそうだな。紅茶を堪能したところで仕事に取りかかる。F、Kなどの原稿整理を淡々と。ちゃっちゃっと仕上げちゃった、という感じ。あとはデザインの仕上がり待ちだ。
 休日出勤ついでに手帖のメンテナンスも。現在のところ、ぼくの手帖はすべてのリフィルがパソコンによる自作、というとんでもない状態なので、まめにプリントアウトする必要があるのだ。マンスリーのスケジュール表も自分で作っている。その手間は本人も呆れ返ってしまうほどなのだが、市販の物では納得できないので仕方ない。さすがにバインダは既成品(といっても、フランクリンプランナーのポケットサイズという、ふつうのシステム手帳とはまったく互換性のないサイズ)だが。で、リフィル。まずはMacintoshで作成したマンスリースケジュール、見開きで1日分という構成のデイリースケジュール、アイデア発想とまとめ用の特殊レイアウトのリフィル、それからメモ用のリフィル---の四種類をどさっとプリントアウトし、カッターで断裁する。最後に6穴パンチで穴をあけて完了。ふう。続いて、記入済みのリフィルの整理。仕事のメモもアイデアも街で出会った変なものハプニングもすべてノートリフィルに記入している。これを分類するために、文房具屋で売っている丸いシール(●←こんなやつ)を数色用意し、それをメモの横に張り付ける。たとえば赤は文学関連、青は美術関連、緑は動物関連、黄色は雑学、その他分類不能な物は紫色…といった具合だ。アナログなやり方だが、これで情報検索はかなり楽になる。問題は溜まり続けるメモをどのように保管するか。メモ魔だからなあ。うーん、パソコンに入力し直すしかないかな。
 中上健次「日輪の翼」。アホな人の血を次ぐ博徒の話。そして高速道路をねぐらにする女性浮浪者のエピソード。
 「重力の虹」。…いかん、混乱してきた。このままでは物語に飲み込まれてしまう。


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Mar.8, 2002
「鼻より目/思考中断/その都度イライラ/ゲルインキのミリョク」


 今日も激しく目を擦りたくなるほどのかゆみを感じる。僕の花粉症は鼻より目にくるようだ。目をよく使う職業がら、これはちとつらい。花粉症による能率低下はどの企業でも問題になりそうだが、どうなのだろうか。一方で、花粉症関連グッズを手がける企業はかなり潤っているという…。
 日中はただひたすらにFのリーフレットとホームページの制作に取り組む。脳みそは快調なのだが、パソコンとプリンタが不調。しばしば思考を中断され、その都度強いストレスを感じてしまう。イライラ、イライラ。
 メインの筆記用具がまた変わってきた。ここ数日は、パイロットのHI-TEC-C(0.3mm)がお気に入り。手帖への記入をこのペンに変えたら、手帖の使い方まで変わってきた。細かい字がかけるからだ。あまりに気に入ってしまったので、黒のほかに赤、青、緑と四色揃えてしまった。それからぺんてるのハイブリッド。こちらは0.5mm。以前から愛用していたのだが、しばらく使っていなかったのだ。よく考えてみたら、どちらもゲルインキボールペン。万年筆のシェアをさらに激減させた商品だ。万年筆も好きなのだが、やはり仕事での使用となると、より扱いやすくコストパフォーマンスも高いボールペンのほうがよい、というのが最近の考え。これでいいんだと思う。贅沢はよくない。でも、快適さは追求すべき。好きな物しか身につけたくないし、好きな物しか使いたくないのだ。
 「重力の虹」。ヒステリックでマゾヒスティックな女優マルゲリータの回想描写。


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Mar.7, 2002
「眠い目、かゆい目/ゲームの想像力、ゲームのリアリズム/小康状態」


 いつもより三十分遅く起床。とはいえ、夕べは徹夜(カンテツではないが)だったので睡眠時間は少なめ。眠くてかゆい目をこすりながら事務所へ。この時期、暖かくなった分だけ花粉症はきつくなる。睡眠不足のせいもあるのかもしれない。
 あちこちでプレイステーションのゲーム「鬼武者2」のポスターが目に付く。松田優作、生きてたらこの仕事を受けただろうか…。
 十六時よりI社にてFのホームページ作成の打ち合わせ。I社のK君、最近プレステ2の「スペースチャンネル5」にはまっているそうだ。意図的な適当さ、いい加減さを演出に加えているらしい。ビデオゲームは現実をそっくりにコピーしたり、あるはずのない現実を作り出してしまうという方向に向かっているらしい。この「意図的な適当さ」も、ゲームならではのリアリズムなのかもしれない。だが、どうなのだろう。ゲームにリアリズムは必要なのだろうか。ファミコン時代、ゲームはぼくらの想像力をかき立てた。二十一世紀のゲームは、リアリズムに浸ることで楽しむものに変わりつつあるのかもしれない。ゲームの作り手の想像力が生んだ世界に同調する、という形のエンターテイメント。…なのかな。ゲームやらないから、よくわかんない。わが家には一台もゲーム機がないからなあ。
 「週刊モーニング」。今週は今一つ。全体的に小康状態の話が多かったのかもしれない。
 「重力の虹」。遅々として読み進まず…。ああ。
 深夜のニュースで鈴木宗男疑惑のレポートを見る。「ムネムネ会」って、誰がネーミングしたんだろう。チャーミングすぎる。
 


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Mar.6, 2002
「仕事オンリー」


 食事とトイレ以外は仕事しかしていないという一日。徹夜になってしまいました。ちゃんちゃん。

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Mar.5, 2002
「バタバタ/水出しの魅力/花屋でしっこ」


 打ち合わせの予定がいっさいなかったので、腰を据えてじっくり仕事するぞ…という目論見はだらだらと崩された。「もろくも」ではない。「だらだら」という形容詞がしっくりするような崩れ方なのだ。ちょっと作業すると、別のことが目の前に立ちはだかる。メールのトラブルや勧誘電話の応酬、プリンタのトラブル、などなど。そんな状態の中でFやMの企画・制作を進める。苦痛だ。Mは資料の大半が英語なので大変。辛すぎて、ついつい独り言が多くなってしまう。
 久々に喫茶店「それいゆ」で昼食。カレーセット。サラダのドレッシングはゴマ、食後の飲み物はデミタスコーヒーというのが僕の定番。ここのコーヒーは水出し式なので、変ないがらっぽさやえごさがなくて実に軽やか。でもボディはしっかりしている、という感じだ。このコーヒーが飲みたくて週に一度はここに来てしまうのだが、最近はご無沙汰していた。一ヶ月ぶりくらいだろうか。コーヒーが脳にしみこむ感じがした。これもまた一種の癒し。
 忙しいので、夕食は事務所の近所の熊本ラーメン「ひごもんず」へ。特製ラーメン。これも週に一度は食べてしまう。ギトギトの豚骨スープなので、食べ過ぎないように気をつけなければ。
 ひごもんずに向かう途中で、リードにつながれていない犬っころが路地を軽やかな足取りで歩いてくるのを見かける。ご機嫌そうだったのでしばらくソイツをみていたら、犬っころめ、花屋の店先に置いてあった花の苗におしっこを引っかけてる。悪いぞコイツ! ちなみに引っかけられたのはイベリス・キャンディタフトという小さくて可憐な花の苗。ひとつ三百円也。お店の人は気づいていないみたいだ。そのまま売られちゃうのだろうか。臭そうだが、なんだか面白い感じがした。犬と花。お似合いじゃないですか。

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Mar.4, 2002
「水も滴るいいインコ/追いつめられる/そうでもない/つまらない/やっぱり中上さんはすごいや/日本的孤独がわからないアメリカ人、のことがわかるアメリカ人」

 天気予報によると、東京の今日の最高気温は十四度。いい天気のせいか、インコたちが狭い水入れに無理矢理体をつっこみ、順を争って水浴びをしている。びちょびちょの濡れ鳥。朝から笑ってしまった。
 どうも仕事がはかどらない。集中して取り組んでいるのだが、商品の全体像が今一つ掴みきれなくて、コピーの路線変更を繰り返している。…困った。ところが、外出する前にトイレに入ったら、突然アイデアが浮かんだ。慌ててメモを取ったが、その分出発が遅れてしまう。
 午後より銀座のI社へ。Mの件、打ち合わせ。資料の膨大さに圧倒されてしまう。どうも今日は仕事を自分のものにできていない感じがする。追いつめられた気分になる。
 引き続き、A社へ。Fのデザイン案の打ち合わせ。ぺらぺらと話していたら、またまた突然アイデアが浮かぶ。その路線で行くことに決定。今日は仕事に対してずっと違和感を感じ続けていたが、決して不調というわけではなかったらしい。
 「週刊ビッグコミックスピリッツ」。なんかつまんないぞ。
 「日輪の翼」。老婆の死。閉塞感のまとわりつく、絶望的な出発。中上文学の重要な要素だと思う。
 「重力の虹」。孤独な日本人将校・モリツリ少尉が登場。スロースロップたちの乱交騒ぎになぜ参加しないのか、と訊かれたモリツリの答えがユニーク。「参加すると、もっと孤独を感じてしまうんです」こういう感覚、アメリカ人にはわからないらしい。それを描こうとした作者のピンチョンはアメリカ人だ…。

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Mar.3, 2002
「爽快/爽快その二/原作の説得力、天才の所以/じゃあ、読むのやめるよ/乱交」

 久々に目が覚めるまで寝た。えーと、つまり目覚まし時計を使わずに自然と目が覚めるまで寝続けた、ということ。疲労回復、爽快だ。首の痛みも消えている。
 ブランチを済ませてからフィットネスクラブへ。いつものメニューをこなしてから、三ヶ月ぶりにヨガのプログラムに参加することに。…辛い。もともと固い体が、さらに固くなっている。終わったら、ちょっと体が軽くなった感じ。これまた爽快。
 フィットネスクラブの行き帰り、梅の花がやたらと目に留まる。荻窪には庭付きの家が多いが、桜と並んで梅を植えているところが多いようだ。もっと花や木に詳しくなりたい。季節をさらに細かく感じることができるからだ。
 十八時三十分より「サイボーグ009」。伝説の名作、「クビクロ」のリメイク。愛犬クビクロを自分の手で葬らなければならなくなったジョーの悲劇はテレビ版も十分に感動的だったが、なぜか説得力に欠けるような気がした。リメイクである分、テレビ版の方が構成力は優れている。だが、息絶えたクビクロを抱き寄せながら号泣するジョーの姿で終わるというちょっと乱暴な手法をとった原作の方が、妙に記憶に残るのだ。これが石ノ森の天才と呼ばれる所以なのかもしれない。
 永江朗「不良のための読書術」を読む。時代に迎合することなく、個性的であり続けることを「不良であり続ける」と定義する著者は、読書こそが不良を生み出すと断言する。ここまではいい。だが、この著者はこのあと「不良的読書の秘訣は、一冊まるまる読まずに一部だけを読むこと」と続けている。…うじゃあ、この本も途中でやめちゃっていいんだね、と思ったので読むのをやめた。この人、自分が書いた本を最後まで読んでもらえないという事実をどう受け止めるのだろうか? 学者はともかく、エッセイストや小説家は最初から最後まで自分の作品のなかに読者を留め続ける能力が不可欠だと思っているのだが、この作者はそれを放棄しているようだ。だいたい、つまらない本を途中で放り出すなんてこと、不良もそうじゃない人もみんなやっていると思うが。
 「重力の虹」。…すごい乱交描写。これをポルノと呼ぶべきか、エロティシズムと呼ぶべきか。わからん。


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Mar.2, 2002
「今日もまた酔っているけど/アナログ主義?/紅マグロ」

 九時三十分起床。ストレッチしながら「渡辺篤史の建もの探訪」を見る。どうやって建っているのかわからない、家が全部テラスという感じの珍妙な家が紹介されている。やかましいミニチュア・シュナウザーが二匹いた。
 休日出勤。Fのリーフレットの構成を考える。カミサンは「なまけ猫王国」のリニューアル作業。一ヶ月はかかるかな。
 最近、パソコンの依存率が低くなっている。アイデアを練るときは紙と鉛筆を使うようになった。最近は4Bの鉛筆がお気に入りだ。それからセーラーの千円万年筆。限りなく筆ペンに近い太さ自由自在の万年筆「ふでDEまんねん」、ぺんてるのゲルインキボールペン「ハイブリッド」、おなじくぺんてるのスタンダードなサインペン、BICの速記用油性ボールペン、などなど。脳みその速度とそれを形にする速度の差が問題。アナログの方が明らかに速いのだ。ただし、長文を書くときはパソコンに限るが。
 夕方、吉祥寺へ。パルコ、ロフトとはしごするが何も買わず。コートを着ていない人が多かったかな。ロジャースで猫のごはんを買って帰宅する。ビールと鍋で夕食。「めちゃめちゃイケてる!」、ビートたけし主演の松本清張ドラマ「張込み」など見る。「張込み」、ストーリーも構成も演出も、みんななんだか中途半端だった。
 「重力の虹」。舞台はあらゆる人種が乱痴気騒ぎを繰り返す客船アヌビス号へ。寝る前にますむら・ひろし「アタゴオル玉手箱(2)」。紅マグロ、イエッ!


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Mar.1, 2002
「今日は酔っているので箇条書き」

●平成信用金庫を困らせてしまった。
●自分も平成信用金庫に困らされてしまった。だからおあいこ。
●新しい万年筆はハズレだった。
●ビジュアルが浮かんでこなかった。
●桜餅と草餅とゴマ団子とすあま団子を食べた。
●プリンタが壊れた。
●「なまけ猫王国」リニューアル計画、始動。を指導。
●焼き肉屋「力車」が信州牛の店になった。
●私の首は治るのでしょうか?


《Profile》
五十畑 裕詞 Yushi Isohata
コピーライター。有限会社スタジオ・キャットキック代表取締役社長。妻は本サイトでおなじみのイラストレーター・梶原美穂。最近は観葉植物にはまっている。植物になら嫌われることがないからか!?

励ましや非難のメールはisohata@catkick.comまで