某飲料メーカー ブランド史の漫画化

100年ブランドの歴史を「漫画」で伝える

この実績ブログを執筆しているのは、当社代表の五十畑。文学かぶれ・哲学かぶれの50代ですが、少年時代は活字だけでなく、漫画もこよなく愛していました。自分の表現のルーツを尋ねられたら、必ず「石ノ森章太郎の『サイボーグ009』」と答えています。それはさておき……漫画という表現には、活字とはまったく異なる機能や可能性があるのは皆さんご承知かと思います。今回ご紹介するのは、広告・広報・販促・ブランディングを目的として、クライアント企業のために「漫画」を制作した事例です。

[オリエン内容]国民的飲料の歴史を漫画で魅力的に伝え、読む人に気づきや学びを与える

今回のクライアントは、グループにビール会社のある国内超大手飲料メーカー。ある二つの、100年以上の歴史を持つ清涼飲料のブランド史を、漫画にしたいという依頼です。広告代理店のもとでコンペに参加しました。

この漫画ブランド史とは別に、テキストによる「正史」も作成するするとのこと。漫画のほうは歴史に詳しくない社員や消費者といったステークホルダーに親しみやすい表現で歴史を紹介したい、というご意向です。

提案にあたっては、企業案件を得意とする漫画編集プロダクションとタッグを組むことになりました。

[初回提案・コンペ時提案]既存キャラ活用案+オリジナル案を提案

広告代理店・編集プロダクションと相談の結果、二つのブランドのうちAは編プロが著作権管理をしている昭和時代の某有名アニメキャラクターを活用した案にすることに。もう一方のBは、オリジナルストーリーを提案することになりました。

ストーリー構築は、五十畑が一人で作成してから、関係者に意見をいただいて修正するスタイルに。アニメキャラの特性や舞台設計を(すでによく知っていましたが)確認し、ブランドA・Bの現在の定義および過去の歴史に関する資料を徹底的に読み込み、そこからヒントを得てストーリーを作成しました。

アニメキャラのほうは、キャラの特徴をそのまま生かした「工場見学を通じて歴史を知る」という案と、キャラがもし現実世界に生きていたら65歳くらいになることから、彼らが大人になってこの飲料メーカーに入社し、ブランドAの仕事に携わり続け、定年退職の日に自分の仕事とブランドの歴史を振り返っていく…というノスタルジックなストーリーの2案を用意。

キャラを使わないブランドBについては、ドキュメンタリー調のビジネスコミック案、そしてタイムトラベルを軸にしたストーリーなどを用意。コロナ禍だったため、リモートでプレゼンを行いました。

その後、クライアントの要請で他の案もいくつか追加提案しています。

[2回目提案・コンペ採用後]要請に応えるために再提案し、ストーリーが決定

その後、当チームの物語構成力やアイデアの柔軟性、ブランド価値の理解の深さなどが決め手となって、受注が決定!

ただし歴史の漫画家にあたっては、虚構のストーリーを展開するのはいいが、そこにSF的・ファンタジー的要素を加えるのはNGとのこと。確かに、この飲料メーカー様にはファンタジー色のあるCMがまったくありません。企業文化的なものなのでしょう。

この要請を受け、ファンタジー色のないアイデアを再提案したところ、何度かのやりとりを経て、以下の方向性で進めることが決定しました。

  • ブランドA:140年に及ぶ歴史の中から、「ブランド誕生のエピソード」および2つの「ブランド消滅の危機から見事に復活したエピソード」を、史実を軸にしてストレートに漫画化。3つのエピソードをつなぐために、「理念・文化の継承」という要素を重視した展開に。「ジョジョの奇妙な冒険」のジョースター家を意識しました。
  • ブランドB:あるロックバンドのサクセスストーリーを軸にしつつ、彼らの成功を支える要素として、そのブランドの理念や歴史、起死回生のエピソードなどを絡めていく展開に。一般的な社史漫画ではまったく使われない手法を提案したところ、その尖った表気やアイデアがブランドの本質と非常に親和性が高いということで採用されました。

この段階では、おおまかなストーリーと主要登場人物の基本設定を提案。細部についてはこの後の制作フローの中で作り上げました。また、足りない情報についてはさらに資料を収集したり(市販書を買ったり、国立国会図書館を利用したり…)、社員にインタビューを行ったりしました。

[制作段階]漫画制作と同様のフローで展開

ストーリー決定後は、一般的な漫画制作とほぼ同じフローで作業を進めました。ただし、漫画制作のエキスパートは厳密には編プロと漫画家だけだったため、コミュニケーションは広告・販促物制作以上に密に行うようにしました。多い時は、クライアントとは週に2度以上、代理店とは3度以上のリモート会議を行なうこともありました。

今回のフローを紹介します。一般的な流れなので、社史漫画以外の販促コミックでも使えると思います。

1. プロット作成

あらすじを、提案段階よりも細かく作成。全ページ数が決まっていたため、そのページで収まるように計算しながら物語を構築しました。1つの章をシーンごとに細分化し、場面描写、出来事、キャラの行動や発言、心理などを、言葉だけでまとめたものを提出し、クライアントにチェックしていただきました。疑問点や追加の資料要請も、できる限りこの段階で行いました。

PowerPointで作成しました。

2. シナリオ作成

1で決定したプロットを、シナリオ化する作業です。描写はより具体的にし、セリフは漫画として読みやすいように文字数・口調などをしっかり調整しました。編集者・漫画家にわかるように(そして作画しやすいように)書くことが重要ですが、クライアントや代理店といった漫画のプロではない方にもわかるようにする必要があるため、一般的な漫画原作のシナリオより文字数は多めになります。

Wordで作成しました。

3. キャラクターデザイン

2と並行して、漫画家と相談しながらキャラクターの外見を作成します。社史漫画の場合は時代・史実にあった服装にする必要があります。

ブランドAでは、2000年代の女性総合職の髪型・服装が一番大変でした。この時代の資料、ファッション誌のバックナンバーを探る以外に方法がないんですよね…。

ブランドBは登場人物がバンドマンなので、ファッションや髪型、そして愛用する楽器のメーカー、モデル名まで指定しました。ただし、作画にあたってはヘッドの形状など少しだけ変えたりしていますが…。「フェンダーのムスタングでグランジみたいな音を出してもらいたい」「フェンダーのプレジションベースでおもいきりぶっとい音を弾いてほしい」みたいなオーダーをしています。漫画家さんは音楽にそこまで詳しくないので苦労したようです…。

4. ネーム

シナリオとキャラクターデザインがフィックスしたら、ネーム(漫画の下書き)を行います。ネームの段階でどれくらい絵を具体的に書き込むかは、漫画家によって大きく異なります。緻密に描く人もいれば、棒人間みたいなもので済ませる人も…。

今回は企業案件で漫画制作に慣れていない関係者が大半だったため、漫画家にお願いしてできるだけ具体的に描いてもらいました。こうすることで、ペン入れ段階での赤字を防ぐこともできます。

なお、この段階がストーリーやセリフの変更を行うラストチャンスです。

5. ペン入れ

ネームがフィックスしたら、清書を行います。今回の漫画家の場合、デジタルでのペン入れでした。しかし、だからといって簡単に修正できるわけではありません。

吹き出しの中のセリフは別途、編集者が「写植」と呼ばれる文字打ち作業を外注し、後ほど清書データと合体させます。

この案件では、ペン入れと並行して表紙・裏表紙の制作も行いました。

  • タイトル案
  • 市販本の「帯」に相当する部分のキャッチコピー、デザイン
  • 表紙の絵
  • その他の要素のデザイン …等

[完成後]デジタル・紙の両方で展開

完成した漫画は、PDF化してクライアントの公式サイトにて公開。トップページや、ブランドA・Bのブランドサイトから流入できるようにしました。

また、当初は予定していなかった印刷・冊子化も行うことが決定。ブランドゆかりの地域にある小学校に通う生徒に配布され、クライアント社員による特別課外授業も行われました。また、工場見学に来た方にも配布しています。

[まとめ]制作側は、「広告視点」を持てるかどうかが勝負どころ!

社史の紹介や販促などが主目的となる「企業が発行する漫画」は、重要なオウンドメディアの一つであり、同時に企業による内製が非常に難しい分野であると思っています。もちろん、漫画をかける人を(連載を持つ漫画家でも漫画家の卵でもイラストレーターでも元漫研の社員でも…)アサインさえすれば、制作するこてゃ可能です。しかしストーリー性、メッセージ性、読みごたえといった完成度にかかわる部分や、そして何よりも広告・販促・ブランディング面における効果の高さを追求したいなら、以下の能力が不可欠になります。

  1. コミュニケーションを通じてクライアントの意図を汲み取る能力
  2. 汲み取った意図を、漫画という表現に落とし込める能力
  3. クライアントのことだけでなく、読者全体に配慮し表現に反映する能力

当社の代表・五十畑は、二十数年にわたり広告・販促の分野でコピーライター兼プランナーとして活動してきた実績があり、かつ漫画原作を作成する能力があるため、企業案件には最適……と自画自賛していますが(実は恥ずかしい)、それはともかく、こうした案件の引き合いがあれば、ぜひ企画・戦略立案の段階から相談していただきたく思います。

実績集

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スタジオ・キャットキックでは、著作権などの問題から過去に手掛けた作品のWeb掲載を見合わせております。具体的な実績をご覧になりたい方は、ぜひ当社にご連絡ください。実績集を持参いたします。

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