某化学メーカー 2020年版CSRレポート 研究開発部門座談会記事

CSRは、企業価値をより魅力的に見せるための手段!

CSRは、ブランド価値を底上げする。

最近、CSR(企業の社会的責任)やESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資)、SDGs(持続可能な開発目標)などの、企業の社会価値訴求関連の制作物の相談がどんどん増えています。個人的には、これらはコーポレートブランディングの一環であり、そもそも企業のブランド価値には商品価値・情緒価値があり、情緒価値を支えているのが体験、グランドデザイン、そして社会的責任などのCSR領域だと考えています。

CSRこそ、ライターの腕の見せ所。

さて、今回ご紹介するのは(例によって実物はお見せできませんが)、CSRレポートです。これまでの経験から、CSRは企業のCSR部門の担当者が原稿を用意し、必要に応じてライター兼編集者が読みやすく伝わりやすくなるように編集加工する、というパターンが多い気がします。

しかし座談会やインタビューの場合は、取材が必要になること、インタビューなどの記事化はさまざまなスキルが必要であること、などの理由から、ライターにまかせることが多いようです。しかし、多くのCSRレポートでは、この「記事化」に失敗している気がします。理由は、「インタビューで話してもらったことを伝える」に徹しているライターが担当する場合が多いから。「CSRはまじめでタイクツ」という無意識のうちの先入観が、そうさせているのかもしれませんが…それは間違った認識であり、間違った姿勢です。記事化の際に(CSRについての基礎知識があるのは大前提として)この企業のCSR方針やブランド価値、ステークホルダーが抱くパブリックイメージなどをしっかり理解し、さらに広告・販促的視点から、あるいはCSV(Creating Shared Value)的な観点から、「どうやったらこの企業の価値向上に結び付けることができるか」を、経験・知識・能力を総動員して取り組めば、より魅力的なページに仕上がります。そこには、マーケティング的・ブランディング的な視点と「この企業の役に立ちたい」という貢献的な姿勢が不可欠だと思います。

新型コロナの影響が…

その記事化テクニックが、かなりフシギなカタチで活かされたのが今回ご紹介する化学メーカーの事例です。ここにも、「新型コロナ」の影響が現れています。

〈制作目的と受注の経緯〉研究開発者の交流から、新たな価値を創造したい。しかし…

今回のクライアントは、プラスチック技術をコアに産業資材などを開発・生産する化学メーカーです。CSRレポート本体は別の(おそらくCSRを専門に手掛けている)制作会社が担当。これまでは環境保護、労働環境など商品価値以外の部分を重視した内容でしたが、本年度版からは新たなチャレンジとして「研究開発」をテーマにした特集ページをつくりたいとのことでした。

この「研究開発特集」の目玉となるのが、研究開発担当者による座談会です。企業の社会的責任や社会貢献のために、研究開発部門は何ができるか、何をすべきかを、自由に語っていただく4ページの企画です。

このメーカーには目的・用途別に複数の研究所がありますが、異なる研究所の研究者同士が交流することは意外に少ないとのこと。交流を活性化してお互いに刺激を受け合い、新たな価値創造に貢献するための手段としてもこのページを機能させたいという目論見がありました。

まったく新しい試みだったため、クライアントは企画コンペを実施。その結果、当社の発注元である某代理店の受注が決まりました。オリエン、プレゼン、受注決定…とトントン拍子でプロジェクトは進んでいったのですが、ここで最も恐れていた状況が世界中を包み込みます。新型コロナウイルスによるパンデミックです。座談会を開催する予定日は緊急事態宣言の期間中となり、一時は企画そのものがなくなる可能性がありましたが。

〈体制・制作〉オンライン会議システム+ファシリテーター

制作に際しての大きな課題は二つ。一つは「どこで行うか」。そしてもう一つが「どう行うか」でした。

①オンライン会議システムで座談会を実施

研究所があるのは地方の拠点。CSRレポートを企画制作するのは東京の本社。そして制作を受託する我々の本拠地も東京。当初は研究開発者の皆さんが東京に出張して、という予定でしたが、オンライン会議システムで行うことに。何度も会話テストや撮影テストを重ねた結果、なんとかなるだろうという判断に至りました。

②CSRコンサルタントがファシリテーター役に

これは新型コロナウイルスとは関係がない課題ですが、座談会は自由に会話していただくと混乱し、期待している内容にならない可能性が高いため、場を仕切る進行役が必要になります。今回は、国内外のサステナビリティへの取り組みに精通し環境保護活動も行っているCSRコンサルタントがファシリテーターを行うことに。研究開発者には、事前に「10年後、30年後に世界が直面すると思われる課題」についてをコンサルタントがまとめた資料を配付し、その課題に対して、彼らに、あるいはこのクライアントに、いったい何ができるのかを考えていただき、それを発表するというスタイルにしました。発表内容は、ある程度事前にまとめていただき、それを提出していただいた上で、当日の座談会にのぞんでいただきました。

この「発表」というスタイルは、実はオンライン会議システムでは非常にやりやすい手法。フリートークの場合、予期せぬトラブルが生じた際に最悪の場合はすべてが破綻してしまう可能性がありますが、一人ずつの発表をベースにすれば、このリスクを回避しやすくなります。

③ここで、第三の課題が発生。「どのように、魅力的な記事にするか」

座談会は五月下旬に行われ、音声トラブルは生じたものの内容に支障はなく、ひとまず無事に終えることができました…が、ここで新たな問題が発生! それは…

発表形式は…退屈になる

そのまま記事化すると、「つまらなくなる」ということでした。

多くの方が経験したことがあると思いますが、担当者が発表し、終わったら別の人が発表して…を繰り返すだけのスタイルは、内容に起伏がなくなってしまい、どうしても退屈になってしまいます。一人ひとりの発表内容が興味深いにもかかわらず、です。これは、「物語化」になれすぎてしまった現代人の悪しき一面なのかもしれません。しかし、つまらない記事では読んでいる途中に離脱されてしまいます。(と書いている自分がコワイです。この記事だって、その可能性があるのですから。CSRにも制作にも興味のない人にとっては価値のない文章ですから)

編集技術で、内容に起伏を生み出す

そこで当社の(というか、ぼくの)出番です。一人ひとりの発表内容は、実はいくつかのテーマに分類され、さらには同じ企業に働いているだけあって共通の視点があったりします。一方で、各研究者の専門分野が異なるため、ある社会問題に対して、まったく別の解決手法が提案されたり…といったこともありました。さらには、企業風土や専門分野を完全に飛び越えて、びっくりするくらい個性的な発言をする研究者も。こういった、一つひとつの情報の「価値」を活かさない手はありません。そこで、内容はまったく捏造することなく、発表・発言の順番を巧みに入れ替えてみました。すると、これだけで議論が交わされているような雰囲気が生まれます。クライアントおよび座談会出席者に了承を得た上で、この「議論の雰囲気」を重視した構成に全体を再構築。議論の展開が会話として違和感がないように調整し、さらに、わかりやすい見出し・小見出しを立てました。これによって、内容がより面白くなるだけでなく、この企業の研究開発者たちはみなどこを目指そうとしているのかが、より明確に。予想以上の効果も得ることができました。

〈最後に〉CSRレポートの発行は、義務ではない。だからこそ…!

新型コロナウイルスの影響で、かなりイレギュラーな制作過程を踏んだ今回の事例ですが、クライアントのCSRご担当者の熱意に影響されてか、代理店担当者もファシリテーターもぼくも、いつも以上に熱くなりました。いろんな思いからより大きな使命感が生まれ、それをクライアントと代理店とがうまく共有できた結果なのだと思います。

この熱意、CSRレポートが「上場企業の義務」という姿勢からは絶対に生まれてこない。「伝えたい」「世の中を変えたい」「貢献したい」といった想いこそが、CSRレポートの高品質化につながるのだと確信しました。

当社、今後はCSRやSDGsのような「社会価値の訴求」にも力を入れていこうと考えています。ご相談は、当サイトのお気軽にどうぞ。

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