某エネルギーインフラ企業 採用案内
重要な「基幹ツール」をどのようにつくりあげるか
今回取り上げるのは新卒向けの採用案内パンフレットの事例ですが、ここ二十年ほどで企業の新卒採用手法はほぼ確立されていると言えるでしょう。採用活動のポータルをリクナビなどの大手リクルーティングサービス事業者が担い、企業はそこで就活生のエントリーを獲得。その後の、対面(やリモート)での説明会や面接などの具体的な選定プロセスにつないでいく…。この流れが一般的になりました。ここで重要になるのが、まずポータルへの動線となる企業の採用サイトのコンテンツ。そして、エントリー後に優秀な学生に自社の魅力をアピールし入社意向を高めるための、説明会のスライドや、採用案内パンフレットといった「基幹ツール」の内容です。中でも、説明会に参加するというアクションを起こした見込み度の高い就活生にのみ「モノ」として配布され、かつ自宅に持ち帰られて説明会終了後も繰り返し読まれる可能性が高い採用案内パンフレットは、デジタル全盛の時代とはいえ、極めて重要なツールであると言えます。この事例のクライアントであるエネルギーインフラ企業様もパンフレットを重視。予算内で、できる限り競合他社とは異なる仕様と内容のツールを配布することで、よい人材の獲得につなげたいと考えていました。
《クライアント企業について》エネルギー資源の元売会社
今回のクライアントは、さまざまな理由から(すみません、特定されてしまう可能性があるので詳しく書けません)注目度が高まっている、とあるエネルギー資源の元売会社です。社員は親会社(厳密にいうと親会社ではないのですが)からの出向が大半。彼らは数年後には元の会社に帰る予定があるため、優秀なプロパー人材の獲得が急務になっていました。
《受注の経緯と体制》ミニマムな編成+オンラインツールを駆使して進行
懇意にしているデザイン会社からの依頼でしたが、その会社も別の会社から依頼されており、ライティング面でチームに加わってほしいとのことでした。その別の会社とは、実はフリーのカメラマン。一人社長の会社です。カメラマン兼クリエイティブディレクター1名、アートディレクター1名、デザイナー1名、コピーライター1名という4名でチームを編成。コロナ禍の中、ChatworksやZoomを駆使してコミュニケーションの質を高めながら企画制作を進めました。
《(当初の)基本方針》「人」と「つながり」を重視した内容と表現
この会社の魅力は数多くありますが、エネルギーを扱うという社会的使命が強いせいか、社員同士の結びつきが強く、加えて企業内の風通しが非常によいという企業文化があります。この点も踏まえてクライアントと打ち合わせを重ねるうちに、以下の方向性が見えてきました。
「人の魅力」と「人のつながり=組織の魅力」を、エネルギー事業の社会的意義や使命を通じて伝える
具体的には、以下の要素を重視したインタビューや座談会を行い、それをできる限りリアルな「生の声」として記事化し、表現することにしました。
・インタビュー対象社員および座談会参加社員の、個々の能力と役割
・インタビュー対象社員および座談会参加社員の、プロフェッショナルとしての意志や、思いの強さ、やりがい
・スキルおよび役割の異なる個人同士の連携による、強い組織の実現
《全体構成》6つのリーフレット+ホルダーで1つのパンフレットに
パンフレットは中綴じの冊子モノにするのではなく、異なる役割・内容のリーフレット6種類を作成し、ホルダー(タトウ)に収納することに。情報のボリュームは異なりますが、各ツールに主従関係はつくらず並列扱いに見えるようにしました。冊子ではないという点で競合他社と差別化するのが一番の狙いです。
《企業情報紹介ツール》
- トップメッセージ兼ホルダー
- 事業紹介リーフレット(2ページ)
- 数字で読み解く(従業員数、男女比、売上、海外取引国数…などの数値データ集。1ページ)
- キャリア制度について(1ページ)
- 会社概要(1ページ)
- 募集要項(1ページ)
《社員および具体的業務内容の紹介ツール》
- 若手社員×人事部座談会(6名・2ページ)
- 新入社員座談会(3名・2ページ)
- 先輩社員の担当業務とこだわりインタビュー(4名・4ページ)
インタビュアーや座談会の進行役は当社が担当。各ツールに役割・目的を設定し、インタビューや座談会に際しては事前にヒアリング項目やトークテーマをまとめた資料を参加者全員に配布。ある程度、何を話していただくかを準備していただいた上で、本番に臨んでいただきました。
また、Web版は《社員および具体的業務内容の紹介ツール》に情報を肉付けした「ロングバージョン/詳細版」として公開することになりました。
《方針変更》インタビュー実施後に、要素を分解・再構築して内容を変更
当初の方針通りに「人の魅力」などを重視したインタビューや座談会を実施し、原稿の初稿を書き上げました。しかし、クライアントがここで方針を変更。(初稿でもしっかり訴求はしていた)業務内容のより詳しい紹介や、会社としての社会的使命、エネルギー元売りのビジネスモデル、部署間連携等による組織力の高さ点といった、「法人」としての強みや魅力をより重視した上で、行間的に「人の魅力」を語るという方針へシフトすることになりました。
ここで問題が発生しました。「人の魅力」を重視したインタビュー内容を、そのまま使うことができないのです。制作スケジュールやインタビュー対象社員の予定を考えると、インタビューをもう一度行うのは不可能。そこで、実施済みのインタビュー内容を一度バラバラに分解し、伝えるべき要素(の断片)を抽出した上で、生地全体を完全に再構築することで、変更後の方針に合致させることにしました。記事の内容は、インタビューの流れとはまったく違っているものもあります。しかし、掲載要素は各社員が自分の口から語ったものになっています。また、要素の順番と強弱を変更することで、事業内容がよりわかりやすくなる表現にしました。
ちなみにこの手法は1名だけを対象にしたインタビューなら、ある程度の経験があるライターなら比較的容易に対応できると思います。問題は座談会。複数名が入れ替わり立ち替わり話すため、全体の話の流れを再構成する必要がありますが、それに加えて、各参加メンバー一人ひとりの話の流れも変える必要があります。これらを実現するには、メンバーそれぞれの性格やポリシーをしっかり理解し、記事における役割も明確にすることが不可欠。高度なテクニックが必要です。
クライアントとの確認作業にも神経を使いました。丁寧かつ細やかな対応を心がけ、微妙なニュアンスの違いもしっかり指摘していただき、積極的に表現を修正。何度かのキャッチボールの末、会社の方針と合致し、かつインタビュー対象社員や座談会参加社員の役割やポリシーからもズレていない、そして多くの就活生に興味を持ってもらえるような、納得できる内容と表現の記事に仕上がりました。これは、当社ももちろんがんばりましたが、クライアントとの窓口となってうまく舵取りをしてくれたクリエイティブディレクター役のカメラマン様のおかげでもあります。本当に感謝しています。ありがとうございました。
《まとめ》採用ツールも、広告屋の仕事!/長文、今後も力を入れます!
人材採用とは、商品を「提供する」ことを目的とする広告・販促と異なり、人を「得る」ことを目的とする企業活動です。こう書くと、広告企画制作会社やコピーライターの領域ではないように感じるかもしれません。しかし、その企業に固有な価値を外部に情報として発信することで、その企業にとってプラスになる別の価値や資源を得る…という点において、広告と採用は本質的に同じではないかと思っています。つまり、このフィールドも私たち広告屋の得意領域なのです。特に、今回のような方針変更への柔軟な対応は、広告制作会社に取ってはよくあること。クライアントとしっかりコミュニケーションを取ることができれば、スムーズ&スマートに対応でき、期待以上の成果を出すことができます。
また、長文のインタビューは雑誌系・Webマガジン系ライターの得意分野かもしれませんが、クライアントの目的に合致した、あるいは期待以上の成果を生み出せる内容・構成を創り出せる力は、広告・販促の経験が豊富で長文執筆にも定評がある当社の強みが発揮しやすい、と思っています。
当社では、採用案内を含めた長文で構成される「読ませる」パンフレットやカタログの企画制作に、今後も力を注ぎ続けたいと考えています。ご相談は気軽にどうぞ。
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